政策個表

タイトル O157等感染症に係る疫学的原因究明事業
施策・事業名称 O157等感染症に係る疫学的原因究明事業
都道府県名 埼玉県 本件問合先 埼玉県保健医療部保健医療政策課
分野 健康福祉 048-830-3526
a3510@pref.saitama.lg.jp
内容 (事業概要)
埼玉県では、O157等の腸管出血性大腸菌の広域集団感染(Diffuse Outbreak)の原因究明を行うための疫学調査方法の開発を行い、調査のための調査票と組織的調査システムを構築した。平成14年度から実用化し、健康危機管理対策として県庁関係各課・保健所・衛生研究所が連携して運用している。


(事業の背景と目的)
O157等の腸管出血性大腸菌感染症は、1)しばしば重症化し、集団発生もしばしば起こり、食品由来の場合が多いなどの点で、発生すると社会的関心が高い、2)Diffuse Outbreakのような従来とは異なる解決困難な状況が問題となりつつある、3)感染症として取り扱うべきなのか食中毒として取り扱うべきなのか(感染症法上は3類感染症であり、食品衛生法上では食中毒菌の1つとして位置づけられる)論議されることも多い、などの行政的課題が大きい点が特徴である。

近年、共通食材によるO157等の腸管出血性大腸菌のDiffuse Outbreakが続発しており、まん延防止のための早期におけるDiffuse Outbreakの探知及び原因食材又は媒介食材の特定が急がれる状況にある。しかし、典型的食中毒発生パターンと異なり、Diffuse Outbreakは、広域流通食品等による集団感染が想定され、患者発生の範囲が食品の流通エリア全般と広範囲となり、また、保存方法の進歩により暴露の時期も幅があるのが特徴である。結果として、空間的集積性や時間的集積性に乏しいパターンを呈する集団感染の発生を早期に探知するのは困難である。早期に探知できなければ、保健所等の疫学調査も充分に行うことができず、原因食材等の究明は不能となるか時間がかかることとなり、感染被害が拡大してしまう結果となる。

本事業は特にDiffuse Outbreakを早期に探知し、原因究明を行い、適切な対応をとることにより、県民の安全確保に資することを目的としている。


(事業実施の方法)
健康危機管理対策としては、的確性と迅速性との両面が求められる。更に恒常的な機能向上の上では効率性にも配慮し、県民の理解も得なければならない。

そのためには、科学的根拠のあるツールとそれを活用して動くシステムが必要となる。本事業においては、ツールとしては1)科学的根拠のある調査票、2)国際的に確立されている菌の遺伝子検査法を導入している。考案した調査票や菌検査については、後述する。これらを効果的に運営するためには、一機関では無理が生じる。そのため、関係機関の組織連携が図られたシステムが構築されている。疫学調査及び検体採取等の現場対応は管轄保健所、感染症対応に関する調整は感染症対策室、食品衛生に関する調整は生活衛生課、健康危機管理としての調整は保健医療政策課、疫学調査支援・菌の遺伝子検査・結果のデータベース構築解析・情報提供等は衛生研究所が担っている(図1)。この中で特筆すべきは、自治体における衛生行政の科学的技術的中核機関とされる衛生研究所の活用で、調査票の考案・保健所等関係職員の研修相談・菌の遺伝子検査・結果のデーターベース化と解析・関係機関への情報提供と技術助言を行っている。また、調査対象となった県民の協力を求めるため、調査時の説明用としてリーフレット「O157食中毒の原因を調べています!」を作成している。


(事業実績)
【患者情報の収集】
腸管出血性大腸菌感染症届出時の患者調査は、「腸管出血性大腸菌感染症発生原因調査票」(調査票)を用いて、県下全域で同一の書式により実施している。調査票は、Centers for Disease Control and Prevention ( CDC ,USA)の「集団食中毒症例に対する標準聞き取り調査票」を日本語に翻訳したものを原案に、日本の食生活を考慮した食材の追加、過去にEHEC感染症発生事例で原因と推定された食材の追加などを行い、聞き取り、留め置き両方で使用可能な記入方法の簡略化を行ったものである。この調査票は、国立感染症研究所感染症情報センター実地疫学専門家養成コース( FETP )の協力の下作成した。調査票による調査項目は、発症1週間前の行動歴(参加行事、旅行、動物との接触)、外食歴、食品の喫食歴と発症2週間前の食品購入歴で、特定食品として、88品目を挙げている。この調査票の最も大きな特徴は、特定食品を具体的に挙げ、その喫食、加熱の有無などの情報を食品ごとに調査することである。また、全県下で実施される調査に共通書式を利用することは、調査内容の標準化のみならず、コンピュータ上に結果の入力フォーマットを用意しておけば、簡単にデータベースに取り込むことが可能であるという利点がある。
届出患者からの調査票回収状況は平成14年~17年までで届出数347中回収数292で回収率84.1%である。回収率は、健康診断時又は患者発生施設内で接触者調査の結果発見された保菌者数により年ごとにばらつきが認められる。また、調査票の回収までの期間は、患者の約80%が届出日から1週間以内となっている。また、本事業では調査票による患者調査を喫食状況等の一次調査と位置づけている。調査票の記載内容から、同時期の患者間で共通食品が認められるが購入時期が不明な場合など、より詳細な調査が必要な場合には、衛生研究所から職員を派遣し、管轄保健所と協力して、記載内容の確認等の詳細な調査を行っている。

【分離菌株の収集】
衛生研究所に搬入された患者・保菌者から分離されたEHECについては、血清型の決定及びVTの産生性による毒素型別を実施している。
平成14年~17年までに衛生研究所へ搬入された菌株は計350株で、11の血清型に型別され、その内血清型O157:H7が最も多く、全体の78.0%を占めている。毒素型を組み合わせると、17種類に型別されるが、血清型O157:H7、O26:H11など多くの分離株が含まれる場合に、より詳細な分離株間の関連性を検討する必要がある。分離株間の異同を解析するには、近年多くの病原体でDNAの塩基配列の違いを検出する方法が応用されている。腸管出血性大腸菌感染症では、染色体DNAを制限酵素により処理し、電気泳動によりDNA断片を分離し、その泳動パターンを比較する方法としてPulsed field gel electrophoresis(PFGE)法が応用されている。PFGE法は、特殊な電気泳動装置が必要で実施可能な機関は限られるが、腸管出血性大腸菌感染症については国立感染症研究所を中心にインターネット経由で解析情報の交換が可能なパルスネットの構築も進んでいることから、最も一般的な方法となっている。衛生研究所では、分離株数の多い血清型O157:H7を中心に患者分離株のDNAを制限酵素Xba1で処理後、PFGE法により泳動し、そのパターンに暦年ごとに独自の通し番号を付し同時期に分離された菌株のパターン分けを行っている。また、他の機関(近隣都県衛生研究所、国立感染症研究所等)との情報交換は、必要に応じてE-mailによる泳動写真の交換や分離菌株の送付により行っている。

【解析及び還元】
患者の発症前1週間の喫食歴等の疫学情報と血清型、PFGEパターンなどの分離菌株の情報をデータベースへ入力し、各食品の喫食、利用店舗などの患者間での共通性の検索及びPFGEパターンが一致した患者・保菌者間の検索を行っている。還元情報には、調査票、分離菌株の回収状況、患者間の関連性、PFGE解析結果及び関連調査の結果をまとめ、例年患者の増加が始まる時期から夏期を中心に10月ごろまでに年4報~8報の速報を保健所及び県庁関係機関あて送付している。さらに、翌年3月(年度末)に事業報告会を開催し、前年の発生状況の特徴について報告し、同時に保健所担当職員との意見交換を行っている。

【Diffuse Outbreakの探知と行政対応】
平成14年度から16年度の間は、腸管出血性大腸菌感染症の県内発生事例が70例程度と少なく、顕在化した集団発生はもとより、明らかなDiffuse Outbreakとされた事例もなく、互いに関連性の薄い散発事例の状況であった。17年度は患者数も増加し,6月には県内で肉の生食が原因と思われるDiffuse Outbreakを探知した。これについては衛生研究所のデータベースの解析結果を基に関係機関と協議し、ホームページを使用した県民への広報と食品衛生監視の徹底(販売業者への肉の生食の表示違反に関する)を県として行い,事態の迅速収束を図った。18年度においては県内において食中毒事例も発生しており、平常時からの科学的な情報収集を行っている本事業の必要性は増している。


(国や他自治体等の状況)
国は国立感染症研究所が中心となって菌のPFGE法のデータベース(パルスネットジャパン)を運用している。これは全国規模のデータベースで中長期的な菌の流行パターンを知る上では有効な資料であるが、解析結果の提供までに数か月を要するので、現場の即時対応としては活用されにくい。国においても地域の健康危機管理対応として、本事業の有効性は高く評価されており、感染症危機管理研修でも平成16年度、18年度の2回の講演招聘を受けている。健康危機管理に関心を持つ自治体でも本事業に関心は高く、14年度大分県,16年度神奈川県の研修会の招聘を受けている。また、視察では、兵庫県・富山県・神奈川県・奈良県・岩手県・三重県・関東甲信越厚生局・国立感染症研究所・マレーシア保健省等が訪れており、調査票の資料請求についても多い。埼玉県としても共通の調査システムが各自治体で使用されることは、自治体をまたがった事案の発生時の連携対応がスムースとなるため、視察等には積極的に対応している。また、公衆衛生学会等の学術発表等も行っている
図1
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