政策個表

タイトル 生活保護受給者に対する「教育・就労・住宅」の総合的な自立支援
施策・事業名称 生活保護受給者チャレンジ支援事業(アスポート)
都道府県名 埼玉県 本件問合先 福祉部社会福祉課
分野 健康福祉 048-830-3271
a3270-15@pref.saitama.lg.jp
内容 1 生活保護受給者に対する「教育・就労・住宅」の総合的な自立支援
本県では、増え続ける生活保護受給者の自立を支援するため、「生活保護受給者チャレンジ支援事業」を独自に立ち上げた。
本事業では、教員OBや学生ボランティアで構成される民間団体、就労支援を展開するNPO、社会福祉士の職能団体等と福祉事務所が連携して、さいたま市を除く42福祉事務所の生活保護受給者を対象として支援を実施している。
平成22年10月から事業を開始し、「教育支援」・「職業訓練」・「住宅確保」の各分野において専門性を持った支援員を合計131人配置している。また、事業推進組織名称を『アスポート』(「明日へのサポート」と、「明日に向かって船出をする港」を意味する)とし、生活困窮者の多様なニーズに対して、マンツーマンで対応できる体制を構築している。

2 教育支援員事業
(1)事業実施の背景
生活保護世帯で育った子どもが、大人になって再び保護を受ける「貧困の連鎖」の発生率は25.1%という調査結果がある(道中隆関西国際大学教授調べ)。「貧困の連鎖」の発生には学歴と相関関係があり、高校への進学・卒業を通じて、安定した就職に結びつけていくことが重要である。

(2)支援内容
高等学校進学率を向上させるためには、進学意欲のあまり高くない親子に対して、「進学すること」により子どもの将来の可能性が大きく広がるということを丁寧に伝え、進学に向けた動機付けをしていく必要がある。教育支援員は、中学生2,300人の保護家庭を訪問し学習意欲を喚起するとともに、学生ボランティアによるマンツーマンでの学習指導を通じて、高校への進学を支援している。
事業の実施に当たっては、老人福祉施設協議会の協力を得て、県内10ヵ所(熊谷・春日部・川口・ふじみ野・新座・北本・越谷・蕨・川越・所沢)の特別養護老人ホームに「学習教室」を設置している。また、県内外の36大学(埼玉大学や大東文化大学など)から約400人の学生ボランティアに参加していただいている。福祉、教育などを専攻する学生にとって、学習教室への参加は、またとない実習の機会になっている。
教室の運営に当たっては、子どもたちに単に国語や算数といった学習の支援をするだけでなく、安心できる居場所を提供し、社会の中に信頼できる大人たちがいることを伝えてきた。また、お年寄りの介護や掃除など、施設でのボランティア活動や福祉の仕事に従事する職員との交流により、子どもたちの思いやりの心を育んできた。
学習教室参加者の中には、「介護の仕事に就きたい」という将来の希望を述べる子もでてきている。

(3)成果
平成23年度は教室に参加した中学3年生の305人のうち、292人が高校に進学した。進学率は95.7%であり、事業開始前の平成21年度の県の保護世帯の進学率86.9%と比べ、10ポイント近く向上させることができた。
平成24年度は、支援員を30人から45人へ、学習教室を10か所から15か所へとそれぞれ1.5倍にし、中学3年生の参加者を305人から450人へと増やすことを目指していく。

3 職業訓練支援員事業
(1)事業実施の背景
本県では、50歳未満の働くことができる若い生活保護受給者が約2,800人もいる。しかし、有効求人倍率が0.56倍(平成24年2月)と厳しい現状では、特筆すべき技術も職歴もない者が再就職先を見つけることは容易ではない。このため、職歴やコミュニケーション能力等を踏まえて、適性に応じた職業訓練の受講に結びつけ、一定のスキルを身に付けた上で、再就職に挑戦していただくことが必要である。

(2)支援内容
職業訓練支援員は、職業訓練の受講から再就職まで、マンツーマンで一貫して支援することで、働くことができる保護受給者の自立を支援している。

(3)成果
平成23年度は589人を就職に結びつけることができた。
平成24年度は、支援員を43人から51人に増員し、介護、農業、販売等の就労体験コースや、警備員養成、フォークリフト資格取得、ハウスクリーニング等の技能講習を実施していく。定員1,000人を予定しており、支援員が就職に結びつきやすい内容の職業訓練を企画・開設することで、700人の就職を目指していく。

4 住宅ソーシャルワーカー事業
(1)事業実施の背景
本県には34か所の無料低額宿泊所があり、入所者は1,693人となっている。無料低額宿泊所は「一時的な宿泊所」であるが、入所期間が1年以上を超える者が7割を占めている。日常生活を送る上でのサポートが足りず、居宅移行が進んでいないのが現状である。施設に留まり続けると社会との接点も少なくなり、自立に向けた意欲も乏しくなってしまう。
受給者でも借りることのできる家賃の安いアパートの空き物件は3万件を超える。しかし、保証人の確保や家賃滞納の心配などから、宿泊所入所者が借りることのできる物件を探すことは容易ではない。

(2)支援内容
住宅ソーシャルワーカーは、宿泊所入所者がスムーズに民間アパートなどに入居できるよう、地元の不動産業者や大家の理解を求めている。業務
はアパートの確保にとどまらず、受給者が地域で安定した生活を送ることができるよう、生活面での様々な支援を行っていくこととなる。さらに、健康で働ける方については、就職や職業訓練の受講に向けた支援にもつなげている。

(3)成果
こうした取り組みにより、平成23年度は610人をアパートなどに転居させることができた。平成24年度は、転居が困難な高齢者や障害者などの長期入所者を重点的に支援し、年金受給手続きや多重債務解決の支援をすることで、700人を転居させることを目指していく。

5 本事業実施を通じて見えてきたもの
「教育・就労・住宅」のいずれの事業にも共通していえることは、行政だけの支援ではなく、また、NPOや民間団体などへの委託による支援だけで終わるものでもない。重要なことは、地域社会の人々の善意をつなげて、支援のネットワークを広げていくことである。
学習教室の場を提供していただいている特別養護老人ホームからは、「貧困に苦しむ子どもたちへの支援は社会福祉法人の使命である」という有り難い言葉をいただいている。子どもたちの頑張る姿をみてお年寄りも元気になり、親も仕事を探し始めるといった事例もでてきている。就職先の中小企業の社長が熱心に指導を重ね、くじけそうになった対象者が立派に自立できた例もある。また、地元不動産業者と家主の理解を得て、60代後半の施設入所者がアパート生活を再開した例もある。いずれも、支援員と地域の皆様が強力なタッグを組み、生活保護受給者を支えた結果である。
生活保護制度には単に保護費を支給して最低限の生活を保障するだけではなく、一人一人の可能性を引き出し、自立を支援する役割がある。県が先頭に立ち、保護受給者に寄り添いながらきめ細かく支援することで、福祉事務所も「生活保護受給者の自立支援」という本来の機能を取り戻しつつある。
この事業は、いずれも前例のない全国初の取組である。事業の実施に当たっては、当初は想定もしていなかった課題が発生し、対応に苦慮することもあった。しかし、国や市町村、ハローワークなどの関係機関、何よりもサービスを受ける県民の皆様から寄せられる御意見に丁寧に耳を傾け、その都度、事業をよりよい形に改善しながら、一歩一歩、着実に歩みを進めている。
今後も、支援を受ける生活保護受給者の目線に立ち、誰もが前向きにチャレンジできる自立支援の仕組みをつくっていきたい。