政策個表

タイトル 鳥取県手話言語条例制定と手話の普及
施策・事業名称 鳥取県手話言語条例制定と手話の普及
都道府県名 鳥取県 本件問合先 鳥取県福祉保健部障がい福祉課社会参加推進室
分野 健康福祉
教育・文化
0857-26-7201
事業実施期間 平成25年10月8日 ~ shougaifukushi@pref.tottori.lg.jp
内容 1 要旨
平成25年10月8日、平成25年9月定例鳥取県議会において、「鳥取県手話言語条例」が全会一致で可決・成立し、10月11日に公布・施行されました。鳥取県では福祉分野のみならず、学校、地域、企業等の様々な場面で手話の普及を推進しています。

2 手話の意義、歴史
ろう者は、物の名前、抽象的な概念等を手指の動きや表情を使って視覚的に表現する手話を用いて、思考と意思疎通を行っています。
わが国の手話は、明治11年に日本初のろう学校である京都盲唖院の設立に始まると言われ、その後全国各地のろう者の間で大切に受け継がれながら発展してきました。しかし、明治13年にイタリアのミラノで開催された国際会議において、ろう教育では相手の口の動きを見て言葉を読み取る「読唇」と「発声訓練」を中心とする「口話法」を採用し推進することが決議されます。その後、わが国でも急速に口話法の普及が進み、手話は口話法習得の妨げになるとの考えから、昭和8年の文部大臣訓示により口話法推進が決定的となり、その結果聾学校での手話の使用が事実上禁止されます。こうして、ろう者は口話法を押し付けられることとなり、ろう者自身が使いやすく、生活になじんだ手話は否定され、ろう者の尊厳は大きく傷付けられてしまいました。
国際的には、平成18年に国際連合総会で採択された障害者の権利に関する条約で、「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。」と規定され、平成12年のフィンランド憲法改正、平成18年のニュージーランド手話言語法制定など手話の法的認知と普及の動きが広がっていきます。また、平成22年にカナダのバンクーバーで開催された国際会議において、明治13年の口話法推進のミラノ決議が否定されるなど、特に21世紀以降、手話に対する国際社会の認識は大きく変化してきました。
わが国でも、平成5年には文部省がろう教育での手話の活用を認め、平成23年には障害者基本法の改正において、「言語(手話を含む。)」と規定されることとなり、わが国でも手話の法的認知が行われました。また、平成26年には障害者の権利に関する条約に批准しました。

3 手話言語条例制定に向けた取組
(1) 現状
障害者基本法の改正等により、手話の法的認知が行われたとはいえ、わが国ではまだろう者、手話に対する理解が十分とは言えません。手話を理解する人が少なく、ろう者が情報を入手したり、聞こえる人と意思疎通を図ることが困難であることは、ろう者が日常生活、社会生活を送る上での苦労や偏見の原因になっています。
(2) 条例制定に向けた取組
鳥取県では、平成20年に策定した将来ビジョン(県政運営の基本指針)において、ろう者の切実な声を踏まえ、「手話がコミュニケーション手段としてだけではなく、言語として一つの文化を形成している」と明記しました。
さらに平成21年、「障がいを知り、共に生きる」をテーマとして、多様な障がい者への理解を進める研修を行い、その履修者が「あいサポーター」となって障がい者と健常者の共生を進める「あいサポート運動」をスタートします。現在(平成29年2月現在)は、島根県、岡山県、広島県、山口県、長野県、奈良県、和歌山県、埼玉県富士見市・三芳町・秩父市・横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町、北海道登別市、韓国江原道もこの運動に加わっており、全国の障がい者福祉活動のモデル的な取組へと成長しています。
こうした取組に注目していた全日本ろうあ連盟等は、平成25年1月、平井伸治鳥取県知事に対して、「手話言語法制定を国に要請し続けているがなかなか前に進まない。鳥取県がモデルとなって手話言語条例の制定を検討して欲しい。」と訴えました。これを契機として条例案の検討が始まります。この条例案は、全国に先駆けたモデル条例としてふさわしい内容を備えなければならないことから、単に鳥取県のみの視点で立案するのではなく、全日本ろうあ連盟や日本財団、県内外の有識者の知見も集めて検討を加える必要があると考え、関係者の協力を得て平成25年4月に「鳥取県手話言語条例(仮称)研究会」を設置し、条例に盛り込むべき内容の検討を始めました。
平成25年8月まで、計4回にわたって、この研究会で精力的に議論を重ねた結果、条例案がまとめられ、パブリックコメント等で得た意見も取り入れながら、平成25年9月定例鳥取県議会に「鳥取県手話言語条例」案を上程しました。県議会では、教育現場での手話の普及、手話を使わない聴覚障がい者やそれ以外の障がい者に対する支援の必要性、より多くの県民が手話を学ぶことのできる環境整備などをテーマとして、大変活発な議論が行われました。こうした議論を経て10月8日、条例案は満場一致で可決・成立し、10月11日に公布・施行されました。本会議終了後には、条例成立の瞬間を一目見ようと全国から駆けつけた100名近いろう者、関係者が、平井鳥取県知事と喜びを分かち合いました。

4 鳥取県手話言語条例の概要
この条例では手話が言語であるということを前提とした結果、ろう者の社会生活全般をカバーする内容が盛り込まれることとなりました。
(1) 前文
条例には長い前文が付され、その結語として「手話がろう者とろう者以外の者とのかけ橋となり、ろう者の人権が尊重され、ろう者とろう者以外の者が互いを理解し共生する社会を築くため」条例を制定すると宣言しています。前文の中では、手話を使うことの意義やろう者の苦難の歴史にも言及し、ろう者の願いが込められた権利宣言的前文となっています。
(2) 手話の意義等
手話が言語であるとの基本的認識を謳い(第1条)、手話は独自の言語体系を有する文化的所産であること等を理解し(第2条)、「ろう者とろう者以外の者が相互の違いを理解し、その個性と人格を互いに尊重することを基本として」手話を普及することとしています(第3条)。
(3) 県・県民等の責務・役割
ア 県・市町村の責務
手話の意義等に対する県民の理解を深めるとともに、手話の普及等により手話を使用しやすい環境の整備を推進すること。
イ 県民の役割
手話の意義等を理解するよう努めること。
ウ ろう者・手話通訳者の役割
手話の意義等に対する県民の理解促進のため、手話の普及に取り組むよう努めること。
エ 事業者の役割
ろう者が顧客である場合には利用しやすいサービスを提供し、従業員である場合には働きやすい環境を整備するよう努めること。
(4) 手話の普及等
県は、障害者計画において手話の普及等に関する施策を定め、総合的・計画的に推進することとしました。
施策の推進を担保するため、県は、ろう者、手話通訳者、行政職員及び有識者で構成する「鳥取県手話施策推進協議会」を設置することとしました。県は、この協議会の意見を聴いて手話を使いやすい環境を整備するために必要な施策を策定し、その実施状況を公表するとともに、PDCAサイクルを回して見直しを行うという仕組みを制度として定めました(第8・17~23条)。
また、県は、市町村などと協力して、あいサポート運動の推進や県民・職員等が手話を学ぶ機会を確保するとともに、手話を用いた情報発信や手話通訳者の派遣・相談拠点の支援、手話を使うことができる者・指導者の確保・養成などを行うこととされました(第9~11条)。さらに、ろう者が利用しやすいサービスを提供し、働きやすい環境を整備するよう取り組む事業者に対して県が支援することや手話に関する調査研究等を実施することを定めたほか、県は手話の普及に関する取組を推進するために必要な財政上の措置を講ずるものとされました(第13・15・16条)。
あわせて、ろう児が通学する学校の設置者は、教職員の手話技術向上に努め、ろう児や保護者の学習機会確保や相談・支援を行うこととし、県も学校での手引書作成等で協力することが定められました(第12条)。鳥取県ろうあ団体連合会などについても手話等に関する普及啓発活動を実施するよう努めるものとされました(第14条)。

5 手話言語条例制定後の取組と意識の変化
条例制定を受けて、鳥取県では様々な取組を進めています。
まず、県民に広く手話を普及するための取組として、企業等の手話学習会開催経費の支援制度、地域の手話サークルの活動費支援制度を立ち上げ、県民向け手話講座を県内各地で開催しています。また、教育現場では、総合学習等の時間を活用して手話学習を行うために学習教材(手話ハンドブック)を作成・配布し、手話普及支援員派遣制度を創設するなど各学校での手話学習を推進しています。
また、平成26年11月に開催した全国高校生第1回手話パフォーマンス甲子園では、全国から集まった高校生が熱い演技を披露し、感動的な大会となりました。その後も毎年大会を開催し、平成29年秋には第4回大会を開催する予定です。
さらに、手話を使いやすい環境整備のための取組として、遠隔手話通訳サービスモデル事業を実施しています。これは、ろう者が、聞こえる人と手話でコミュニケーションを必要とする場合に、タブレット型端末のテレビ電話機能を通じて、手話通訳センターに常駐する手話通訳者が画面越しにろう者と聞こえる人との手話通訳を行う仕組みです。さらに、平成27年度からは電話リレー(代理電話)サービスの提供もスタートさせました。
平成25年12月には、鳥取県手話言語条例に基づく附属機関である「鳥取県手話施策推進協議会」が発足し、今後の手話施策推進等の役割が期待されています。
ただ、特筆すべきは、条例制定によって県民の意識に変化が現れたことです。ろう者からは、「手話が認められたことは、ろう者が認められたこと。これまではろう者であることを何となく負い目に感じていたが、これからはろう者として胸を張って生きていける気持ちになった。」などという声が、県内企業からは、「これまではあまり手話を意識してこなかったが、今後はきちんと手話を勉強して、あいさつ程度はできるように会社内で勉強会を始めたい。」という声が寄せられています。県庁には手話言語条例に関する講演依頼が多数寄せられ、多くの企業等で自発的に手話学習会が開催され、イベント主催者からの手話通訳者派遣依頼、手話講座の講師派遣依頼は急増しています。県民の皆さんが手話に関心を持ち始めている、こうした意識の変化が起こったことは条例を制定したことによる大きな効果でした。
また、手話言語条例の制定を契機として、情報アクセス・コミュニケーションに困難を抱える視覚障がい者、盲ろう者、中途失聴者・難聴者、音声・言語機能障がい者への支援策も拡充し、障がいのある・なしに関わらず各人が持つ能力を最大限発揮し、誰もが豊かな生活を送れる共生社会の実現に向けて邁進していきます。

6 手話言語条例の全国への波及
手話言語条例制定の動きは全国へも波及しました。平成25年12月に北海道石狩市、平成26年3月に北海道新得町、三重県松阪市で条例が成立し、いずれも平成26年4月1日に施行されました。都道府県では、神奈川県、群馬県で平成27年4月に条例が施行され、平成29年3月末現在、13の県と84の市町で条例が成立しており、その他の自治体でも条例制定の動きが見られます。
このような動きの中、「手話言語を全国に広げ、手話言語法(仮称)の制定を国に求めるとともに、手話を使いやすい社会環境を全国に広げることにより、手話の普及を図り、もって聴覚障害者の更なる自立と社会参加の実現を目指す」ことを目的に、全国の知事有志による「手話を広める知事の会(会長:平井伸治鳥取県知事)」が平成28年7月21日に設立されました。(平成29年4月1日現在38道府県が加入)
平成29年度は、全国手話言語市区長会、一般財団法人全日本ろうあ連盟などと連携し、行政職員を対象とした手話講習会やフォーラムを開催する予定です。
県議会傍聴席で条例成立を喜ぶ全国のろう者と平井伸治鳥取県知事
県議会傍聴席で条例成立を喜ぶ全国のろう者と平井伸治鳥取県知事
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