平成26年05月 新しい地方公共団体の業務継続への取り組みについて ~巨大災害に備えて~

池田教授

富士常葉大学 社会環境学部・環境防災学部

学部長  池田 浩敬

 

 

 

1. 自治体が巨大災害に備えた業務継続に取り組む背景

   2011年の東日本大震災では、岩手県の大槌町、陸前高田市、釜石市、宮城県の南三陸町、女川町などにおいて庁舎自体が津波で被災し利用不能となり業務の場を失った。また、大槌町、陸前高田市、南三陸町などでは多くの職員が津波の犠牲となるなど要員の不足も深刻であった。さらにライフライン機能、交通機能、通信機能が損なわれたことにより、業務の継続は困難を極めた。

   それ以前でも、2004年の新潟県中越地震では、旧川口町(その後長岡市と合併)役場が地震の揺れで大きな被害を受け、調査終了まで立ち入り禁止となり、災害対策本部は屋外の仮設テント内に設置した。さらに停電や交通の寸断などが重なり、1週間程度役場機能をほぼ喪失した。1995年の阪神・淡路大震災においても、神戸市役所の2号館の6階部分が地震の強い揺れで層崩壊し、地震直後は図面や書類等の搬出が困難となり業務に大きな支障を来たした。

2. 自治体の業務継続への取り組み状況

  一方、内閣府は2010年4月に「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」を公表し、各都道府県宛に、地震発生時における業務継続体制の確立及び都道府県内の市区町村への周知を促した。これに先立って2009年度に内閣府が地方公共団体に対して実施した調査では、業務継続計画の策定済みが都道府県で11%、策定中が34%で合わせても半数未満であった。市区町村では、策定済みは0.1%(1団体)、策定中が9%で合わせても1割にも満たない状況であった。

  その後、2013年度に一般財団法人日本防火・危機管理促進協会が、全国の自治体(1,742市区町村)から層化無作為抽出法により抽出した800市区町村を対象に実施した調査によると、標本調査であるため2009年度の内閣府の調査結果とは正確な比較は困難であるが、策定済みの自治体は12.5%と2009年度の策定済み(0.1%)、策定中(9%)を合わせた割合よりもさらに数%程度高くなっている。策定中も10.3%で策定済みと策定中を合わせると22.8%と高まってはいるが、また全体の1/4に満たない状況である。

<未策定の自治体も検討の経験を持つ自治体は少なくない>

  一方で、未策定(策定中を含まない)の自治体のうち、「事業化を検討したことがある」と答えた自治体が31.7%、市区に限ると5割弱存在する。しかし、未策定だが検討経験はあるという自治体のうちの半数(50%)が検討を中断・断念した経験を有しており、その理由は「作成時のノウハウ不足」「作成時のマンパワー確保が困難」と答えている。注目すべきは、未策定の自治体の中でも一度は事業化について検討し途中で断念している自治体が少なからず存在するという事実である。

<トップダウンの効果>

   未策定の自治体と策定済・策定中の自治体の差は何か、私がこの調査結果の中で注目したのは、「検討を開始したきっかけ」である。選択肢の中から複数回答可で回答を求めたものであるが、例えば「担当部署等の問題発議(ボトムアップ)」という回答は両者とも約31%でほぼ同じであるが、逆に最も異なっているのは「市区町村長等によるトップダウンの指示」という回答の比率が、策定済・策定中の自治体では14.3%であるが、未策定の自治体では3.3%と極めて低くなっている点である。一方、未策定の自治体のうち事業化の検討経験の無い自治体に対し計画策定に着手するために最も必要な要素について訊いた質問では「市区町村によるトップダウンの指示」という回答は8.8%と4番目にとどまっているものの、「策定による効果の明確化」が最も多く37.1%、「策定のための人員確保」が23.2%で2番目に多くなっている。これはトップダウンではなく、ボトムアップでことを進めようとすれば、事業化のための予算・人員の確保のためには担当部署自らが「策定効果」を明確に示し、トップや議会、財政部局を説得する必要があり、そのことがハードルをさらに高めている可能性もある。

<策定に関する負担感のイメージ>

 上記の調査では、業務継続計画策定の負担感のイメージについても質問を行っているが、策定中・策定済みの自治体に比べ未策定の自治体では、未だ策定作業に関する人事的な配慮や主要業務としての位置づけも無い環境の中で回答を行っているせいか、作成に要する時間・費用を策定済の自治体よりも多く認識し、有識者や外部コンサルタントの活用が必要とする割合も高くなっている。これは、担当部署の職員の意識・認識の問題とも捉えられえるが、一方では、トップの意識、危機管理に対する認識など当該職員が置かれた環境が影響しているとも考えられる。

3. 業務継続策定のポイント

   実は私自身は自治体の業務継続に直接関わった事はなく、自治体の業務継続に詳しいとは言い難い。しかし、所属する大学の地元である静岡県での民間企業の事業継続の取り組みやその普及の支援に携わって来た経験と、業務継続計画を策定した自治体や策定に携わったコンサルタントの担当者へのヒアリング等から、自治体の業務継続への取り組みのポイントについて考察してみた。

<単純化すれば業務資源の需要と供給の問題>

 業務継続計画では、特に巨大災害を対象とした計画においては、災害直後から短期間に集中して発生する日常の業務量を上回る量の災害応急対応業務に、緊急時であっても継続すべき通常業務の中の優先業務を加えた膨大な業務需要が発生する。一方、災害による庁舎や設備の被災、ライフライン機能の停止、職員の被災・死傷や交通機能の麻痺による参集不能や情報の喪失などにより、供給可能な業務資源(人・もの・カネ・情報)は平常時に比べ大幅に低下する。

 物事を単純化して表現すれば、業務資源の供給量が需要量を下回ることにより業務の継続が困難となり、その需給バランスを調整し緊急時優先業務を継続させることが業務継続計画の目的である。したがって、そのために行うべき事は、1)需要の低減(優先業務の絞込み)、2)供給の充実(供給の低減予防と代替策の実施)の2つである。

  優先業務の適切な絞込みが出来なければ、限られた資源が分散してしまい当該時期に実施しなければならない必須業務が完了せず、被災状況の悪化を招き、それに対応するために更なる資源投入が必要となり対応が困難になれば重要業務が更に停滞し更なる状況の悪化を招く、という悪循環に陥る。逆に必要な優先業務を見落とせば、それが状況の悪化を招き同様に悪循環に陥る。供給の充実策が不十分であれば、資源は絶対的に不足し、優先業務が停滞し状況の悪化を招き、やはり更なる資源需要を増大させてしまう。

図1業務資源(人・モノ・カネ・情報)の需給バランス

図1 業務資源(人・もの・カネ・情報)の需給バランスの調整

<資源を守ることも重要>

 不足する資源を補うための代替策(部署間の人員の融通、外部からの応援等)が重要である事は間違いないが、元から有している資源(庁舎・設備・物資、職員、情報等)を災害から守り、その供給量を低減させないための対策も重要である。

 そのための施設・設備の耐震化や津波対策、非常用電源の確保、情報のバックアップなどに加え、職員の命を守る対策が重要であり、これには、職員の自宅の耐震化や津波・土砂災害等からの避難等を含めた防災教育の徹底、被災自治体への応援派遣などを通じた防災知識の習得や防災意識の向上など、各自治体の特性にあった様々な工夫がポイントとなる。

<部局横断的な連携・調整が基本>

 一方、被災を前提とした業務継続においては、不足する資源を補うための代替策は必須であり、対応の柱でもある。災害直後、確かに業務資源の需給バランスは厳しい状況となり、重要業務の担い手は不足することが想定される。しかし、役所内のどの部署も業務需要が増大する訳ではなく、災害直後に優先して実施すべき業務以外の通常業務を担当している部署では逆に一時的に人員の余剰が発生するため、そうした人員を必要とする部署へ円滑に振り分け業務を継続させるための融通の仕組みと計画を予め構築し、実際の需給バランスの変化に応じて時系列でフレキシブルに人員の移動を可能にしておくことが業務継続の1つの大きなポイントとなる。

<応援体制と受援体制の重要性>

  第一義的には自治体内での人員の融通を考えるのは当然であるが、それでも間に合わない場合は、官民を合わせた外部からの支援を前提とする計画も必要となる。その際、外部から入れ替わり入ってくる応援者が迅速かつ円滑に業務をこなせるようにするためには、応援する側、応援を受け入れる側の両者が、情報の引継ぎや業務の分担方法などについて予め計画・マニュアルなどを作成し共通認識を形成し情報共有を行っておく必要がある。東日本大震災の際に、応援・受援を経験した自治体は多く、そうした経験を活かした計画の作成がポイントとなる。

<非常時優先業務の選定で何を優先するのか?>

   内閣府が出した「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」の中で、非常時優先業務の選定方法の1例として、業務開始目標時間と非常時優先業務との対応の考え方を整理した選定基準表をもとに選定する方法を示すとともに、各地方公共団体の特性に応じた独自の選定基準に基づく選定を求めている。大局的には各時点での「市民の命と健康を守り、市民生活を維持する」という観点からの重要度に基づき選定されるのが基本ではあるが、民間企業で言えば事業継続の基本方針が経営者の経営方針に依存するのと同様に、優先業務の選定基準においても選挙で選ばれた首長の自治体運営の基本方針がある程度反映することは当然であると考えられる。

<他自治体を含む外部機関と連携した業務継続の取り組みの必要性>

  民間企業の事業継続においても、一企業単独のBCPで対応できる範囲は限定される。実質的に事業を継続するためには、サプライチェーン全体の連携や、例えば建屋・設備のメンテナンスや社員食堂の運営など業務をサポートする様々な関連企業との連携なども必要不可欠となる。同様に市区町村においては、都道府県や国の業務継続の取り組みとの連携や整合性の確保、業務を委託している民間企業や災害時の協定を締結している企業・団体との連携、同時に被災しないことを前提とした遠隔自治体との相互応援という観点からの連携、被災地の広域化が懸念される巨大災害時における近隣の自治体との広域対応という側面での連携、自治体クラウドの活用など情報面での信頼性確保のための連携など様々な連携に関する選択肢の検討が必要であり、計画の実効性確保の上で重要なポイントの一つとなる。

4. 日常の業務継続マネジメントを支える体制

   前出の一般財団法人日本防火・危機管理促進協会が実施した調査において、業務継続計画が策定済みと回答した自治体に対し、日常の業務継続マネジメントの実施状況を訊ねている。結果を見ると、業務継続マネジメントのための状況把握の会議を設置しているのは8.7%に止まり、担当部署を定めている自治体も26.1%と全体の約1/4程度に止まっている。業務継続計画の点検・レビューを行っている自治体も23.9%、教育・研修の実施も19.6%に止まり、訓練の実施も30.4%に止まっており、業務継続計画の全庁的な定着と継続的な見直し・改善といった業務継続マネジメントの実施や実施のための体制の確立が成されている自治体が少なく、「計画を作っただけで終わり」となってしまう懸念のある自治体が数多く存在する。これは民間の事業継続も自治体の業務継続も同様であるが、いざという時に計画が実行されるか否かは、日常の継続的なマネジメントの実施の有無が最大のポイントとなる事は言うまでもない。

5. 業務継続への取り組みに関する取り組み事例から

<形式から実効性のある計画へ>

   選定された優先業務の必要資源量・供給可能量の時系列での洗い出し、不足を補う計画の作成に当たっては、まず作り上げることに主眼を置き策定部署が原案をつくるなど、本来担当部署が対応すべき作業を代替することもある。部署ごとの作業も一部の担当者に限られることも多く、結局、役所全体でも各部署内にも計画の中身を知らない人が多い、と言うケースも少なくない。

   そのため、計画策定後の継続的な業務継続マネジメントの取り組みの中で、訓練などを通じて役所内での関わる人の数を増やしていく取り組みが必要である。図上訓練などで、優先業務ごとに時系列で資源の需給状況をシミュレーションするワークショップを実施するなどして、役所内に蓄積された知見・ノウハウが総動員される場を用意する。それこそが計画の“検証”に繋がり、検証に基づく改善を続けることで、“とりあえず”作られた計画も、より実行可能な計画に近づいて行く。

<業務継続マネジメントの継続性を担保する組織体制の整備>

   計画の見直し更新も重要な要素であるが、業務継続計画の中の事前対策の進捗状況の評価・管理を継続的に行うことも必要不可欠なことである。実際に実行されない計画では意味が無い。例えば江東区では、江東区事業継続管理委員会が組織され、部長クラスが計画の進捗を評価・管理しているため、部単位での進捗の優劣が全庁的に明らかになり責任を持って各部局が対策を進める結果となっている。業務継続計画への明記が予算要求の面でも財政部局に対する裏づけ資料としての役割を果たしている。

<教育による計画内容の全庁的な浸透>

   前出の江東区では、教育・訓練は、1)個人対象(6~7月)、2)組織対象(9月)(部署別・機能別・職位別)、3)総合訓練(1月)といったように段階を踏んで行っている。個人が理解していなければ、組織的な訓練をやる効果が薄れ、個々の組織が役割を理解していなければ全体の訓練をやる効果が低下する。こうした段階的な取り組みは、計画内容を全庁的に浸透させていく上での有効な方法の一つではないだろうか。

<東日本大震災の経験を活かした取り組み>

   東日本大震災の際に、職員を被災自治体に派遣した自治体は全国的に見ても多い。その時の経験知を業務継続計画に反映させている自治体も多いと思われる。例えば、静岡県の三島市でも、職員が岩手県山田町に2011年7月から4ヶ月間派遣された際の経験を、時系列での緊急時優先業務の特定や業務資源の必要量の割り出しなどの計画策定業務に役立てている。

<ボトルネックを見つけることが重要>

   計画策定時にいきなり、時系列での災害時優先業務の必要資源量や現状での供給可能量を詳細に見積もることは実際には困難を極める。しかし、出来ないと諦めてしまえば、そこで業務継続計画の策定を断念してしまうことになる。計画策定の担当者が各部署に照会しても、正直、その妥当性の評価は難しい、というのが現実である。しかし、数字はともかく、どの時間帯は、どの部署が不足し、どの部署で余剰が生じそうか、といった勘所は災害時に被災自治体に派遣された職員の知見などからある程度想定することが可能であり、そうした大局的な見地からどこがボトルネックとなるかを明らかにした上で計画の大枠を構築し、それをたたき台に机上訓練などを通じて、その内容を検証・改善していく、という方法も一つの方法であると考えられる。また、資源量を部署間で融通し合う仕組みを確立し、その実効性を検証しておくことが重要である。

<ライフライン事業者、協定締結事業者との継続的なコミュニケーションの必要性>

   自治体側の業務内容や事業者側の業務内容も総合計画や経営計画の見直し、修正によって変わっていく。業務継続計画自体の中身も変化していく中で、業務継続に関する連携の内容についても、両者のコミュニケーションに基づき継続的に修正・改善していくことが必要であり、そうした外部機関との連携を図っていくための会議の設置などの体制整備も一つのポイントになる。

6. BCMの現状の流れから見た業務継続の方向性

<BCPからBCMへ>

  事業継続も業務継続も計画策定が最終目的ではない。継続的にPDCAサイクルを回していくことにより、その実効性を高めて行くことが必須である。極端な言い方をすれば、計画はとりあえずつくってみる、それと並行して業務継続マネジメントの体制を整え、PDCAサイクルを回すことで継続的な計画の改善を図っていく。さらには、民間企業のBCMのように業務継続の取り組みを、日常業務の運用の改善や組織の改善に繋げていくという発想も必要ではないだろうか。

図2継続的なマネジメントの必要性

図2 継続的な事業継続マネジメントの必要性

 

<ハザードベースからインパクトベースへ>

   事業継続も業務継続も、想定通りのハザードでないと対応できないということでは、いざという時に機能しない。業務資源が不足する原因が何であっても結果事象に着目して対策を考える、ということも重要である。全てが原因となるハザードとセットで考えなければならないのであれば、ハザードが100通り想定されれば、100通りの計画を作らなければならなくなるが、実際には不可能である。結果事象をベースに事業継続戦略を立てておくこと、ハザードの状況に合わせてそれらを柔軟に実行するためのフレキシブルな計画としておくことが重要なポイントであると考えられる。

 

 


参考文献

  1. 内閣府「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」,2010年
  2. 内閣府「地震発災時を想定した業務継続体制に係る状況調査」結果の概要について,2010年
  3. 一般財団法人日本防火・危機管理促進協会「地方自治体における震災時BCP作成に関する調査 集計結果(速報)」,2013年
  4. 江東区「江東区事業継続計画-震災編-概要版」,2013年度修正
  5. 三島市「三島市業務継続計画(地震対策編)」,2013年度修正