平成26年07月 成長産業としての農業

宮城大学特任教授     大泉 一貫

Ⅰ 日本農業の可能性と現状の問題点        

1. 日本農業は1970年前後から世界の動向と違った動きを見せた

   私は農業は成長産業になると考えているが、成長産業といってもリアリティがないと感じる人も多い。なにせ、現実の農業は衰退し続けているのだから「仕方がない」といえば「仕方がない」。農業の従事者は65歳以上が6割を占めている。そうなるのも「農業は儲からないから」だといわれつづけ、突破口はどこにも見いだせなくなっている。

   農業産出額は低下し、農産物輸出額は低迷し、農政は稲作へ膨大な財政投下を続けている。ここではまず三点に関し概観し、衰退の理由について考えてみよう。

   まず第一点の産出額は12兆円近かったのが8兆円強まで減少、この15年間に限ってみれば、およそ3兆1千億円が減少した勘定になる。この減少の仕方には特徴があって、減少額の実に3分の2に相当する2兆1千億円が稲作の減少に帰因している。稲作の一人負けの状況がうかがい知れる。

   また第二に農産物輸出額についてだが、世界で最も輸出額の多い国は米国、それにオランダ、ドイツが続き、日本は世界53位の低輸出国となっている。これら四つの国々の輸出額の推移を見たのが図1である。

図 1

2010年 通商白書

   日本が他の国々と明らかな違いを見せるのが1970年以降である。海外諸国が急速に輸出高を伸ばしているのに対し、日本は低位のまま現状維持を続けている。先進諸国は自国農産物の過剰対策として開発途上国への援助や輸出を増加させたのである。他方我が国は、この時期に生産調整政策を講じ、国内での稲作の生産制限に打って出た。

   その後、世界農産物市場は過剰処理という性格を脱し新たな局面を迎えた。例えば、穀物生産量は、70年代の10億トンから2000年の19億トン弱を経て2010年には23億トンに増えるなど、穀物不足が絶えず再生産され、それに追いつくように増産が繰り返された。

   他方、穀物以外では、オランダの園芸農産物やデンマークの畜産物、フランスのワインなど特定品目に特化する形での貿易も活発になっている。先進各国は意識的に特定農産物での市場開発、商品開発戦略を構築してきた。その結果、北米、欧州、オセアニアは、農産物の出超国の位置を確保し続けている。

   他方、我が国は40年以上も稲作の生産調整を続け、市場アクセスに消極的な姿勢を貫いてきた。それが酪農など全ての作物に及び、市場開拓、商品開発などの真の意味のマーケティングに後れを取った。今になって輸出をしようにもそのノウハウを持たない状態となってしまった。

   さらに悪いことには、輸出額どころか国内生産も減退し、輸入だけの片務的国家となっている。それもこれも、「過剰なら生産調整」という稲作の生産調整のロジックが影響している。

2. 稲作偏重農政が続く日本

   世界の中で日本農業の実力をみると、決してどうしようもないほど低いものではない。日本の農業生産額は図3に見られるように世界でも6番目の産出額を誇っているし、一人当たり産出額でも7位と上位にある。日本にとっての問題は、それらが衰退傾向にあり、さらに将来の農業に対する戦略的な思考が見えないことである。

   これが衰退の三番目の理由となっている。

   実際、我が国農政が目指すべき農業、将来形作ろうとしている農業に関しては、農林予算を見ることによってある程度推測することが出来る。

   図2は12年度が民主党政権、14年度が自民党政権時のものだが、およそ2兆3千億円からの農林予算のうち8千億円が土地利用型農業対策、すなわちその大部分は稲作・生産調整・水田に使用されている。1.5兆円産業の稲作に8千億円もの予算が投入されている勘定になる。農水省予算の中には農水省職員の人件費や水産業、林業の予算、さらには食品関連予算も入っていることも考えあわせれば、我が国農政が如何に稲作偏重かがわかる。

   我が国の農政を一言で言えば、コメ政策に社会福祉的意味合いを持たせた「稲作・水田偏重農政」といえるのではないか。浮かび上がってくるのは、エネルギーの大半が稲作につぎ込まれ新展開には消極的になっている構図である。その間にも、稲作が農業の足を引っ張り続け、蟻地獄ならぬ、稲地獄に日本の農業を落とし込んでいる。

   先人は稲作が将来の農業の足を引っ張るであろうことを知っていた。 70年代の東北各県の農政課題は「稲単作からの脱却」だった。 園芸・畜産・野菜・畑作の振興も語っていた。 これらは、「稲作プラスアルファー農業」とも言われたが、UR反対運動や、関税化阻止、米価維持要求等によって、まともに取り上げられず、失敗に終わっている。その結果、我が国の農業は、「低生産性の下での高価格」という課題を抱えてしまった。

   「稲作偏重農政」の転換にこそ我が国農政の大転換が潜んでいる。この膨大な予算を成長戦略に沿うように構造改革と整合的なものに組み替えることが「攻めの農林水産業」の成否を占うことになる。農業の可能性は、稲作偏重から脱し同時に新たな農業の戦略構築を目指すことにある。

図 2

Ⅱ 我が国が目指すべき農業とは?

1. 戦略的に目指す農業のビジョンとは

   農業には古今東西にわたり様々な農業が存在している。農業といっても多様かつ複雑で一言でくくれないものがある。経済成長度合いや国内での産業構造との関連で分類すれば、少なくても世界には三つの農業の型がある。図3の国々でもそれぞれ異なった農業を行っている。少々それを説明しておこう。

図 3

  第一に、食料不足に対応し、増産を課題とする「開発途上国型農業」である。自国の国民を養うことを第一の課題とし、原料穀物の生産に特化した農業を行っている国々である。図3の内、中国、インド、ブラジル、ロシアなどいわゆるBRIC’s諸国がこれに相当する。

   第二は、原料穀物の過剰に輸出等で対応策を見いだしてきた「先進国型農業」である。零細な構造から脱却し、広大な農地を利用した労働生産性の高い農業展開のできる新大陸の農業がこれに相当する。図3でいえば、USA、オーストラリア、カナダの農業がこれに相当する。

   第三は、高付加価値生産をめざし、生産性が高く市場対応型の農業を展開している「成熟国型農業」である。穀物生産から脱却し、特定の農産物に特化する傾向があるが、新たな価値創造を重視する市場開拓・商品開拓を課題とする農業である。図3では、オランダ、デンマーク、フランスなどヨーロッパの国々がこれに相当する。

2. 成熟先進国型農業の特徴とは?

   我が国は戦略的に目指す農業の型を明確にすべきとしたが、これまでの記述からも、目指すべき農業は既に言わずもがなであろう。高付加価値を目指す「成熟先進国型農業」しかないと私は考えている。

   繊細で高度な食習慣を持ち、衛生や食品の安全性に敏感な我が国のような国こそ世界に誇る付加価値の高い農産物や農産物市場の開発をリードすべきだだろう。

   ここまでの我が国は、どうも付加価値の高い農産物ではなく、原料農産物に目標を定めていたようである。そしてまた、目指すべき農業の型もあいまいだった。たとえば、食料自給率向上を目指すと主張して「開発途上国型農業」を目指しているようにもみえるし、低コスト競争をすると主張して「新大陸の先進国型農業」を目指しているようにもみえる。

   農政も壮大なビジョンをもって我が国のこれからの農業の有り様を考えなければならない状況になっている。

   それでは目指すべき「成熟先進国型農業」とはどのようなものか。これまでは、開発途上国型農業や、新大陸先進国型農業との区別に重点を置けば、原料生産ではなく、生産性が高くかつ付加価値の高い農産物生産を行いかつ輸出力のある農業を成熟先進国型農業の特徴としてあげておいた。とすれば、何が付加価値を生むかに関して明確な戦略を持つことが最も重要であろう。たとえ農地面積が狭くても、自らの顧客、ターゲットが明確で、ニーズに沿った農業に敏感に対応するマーケット・オリエンティッド農業が成熟先進国型農業ということになる。

   そうした農業の仕組みを不断に考案する為には、他産業との垣根を低くし、むしろ積極的に情報交換しながら知識創造できる条件を整備する必要がある。

   世界の成熟先進国(オランダ、デンマーク、スイス、ドイツ等)は、政策的にこの点を明確にしている。これらの国々が成熟国型農業に取り組んできた背景には、(1)周辺に低コスト・ボリューム戦略の大国(アメリカ、カナダ等)が存在しており、(2)自国市場が狭矮で、世界市場に関心を持たざるを得なかったことに加え、(3)自国の唯一の資源は人材・知識しかなく、知識を中心にした農業構築に邁進せざるを得ない事情があった。

   例えば代表的なのがオランダの農業だが、ビニールハウスが立ち並ぶ中にIT管理棟があり、ハウス内の設計から、温度、光、CO2の管理、作業管理、出荷管理等全てITによって完全に知識情報管理化された農業であり、様々な企業がこれを支援している。

   こうした農業を構築する際の特徴をまとめてみると、少なくても次の4つの環境整備が必要とされるのではないか。

  1. マーケットが求めているものに敏感に対応する姿勢を持ち、輸出も視野に入れた市場開拓や商品開発にポジティブに対応する「顧客指向型農業」を展開していること。
  2. 新規投資や生産性向上、農業イノベーションに前向きな姿勢を貫く「技術開発型農業」を展開していること。
  3. 他産業とのネットワーク構築やノウハウ利用にオープンなスタンスを持ち、「融合産業化」を進めていること。
  4. 家族経営だとか企業経営だとかの企業形態にこだわらず、経営ノウハウを大事にし、人材の参入にも積極的で、開放的な「経営革新型農業」を展開していること。

   特に、知識資産が重視され、それが重要な経営資源になると同時に、そのため他者とのネットワークの構築や、世界に共通するグローバルな教養・ビジネス教育を基本としていること。

   これらを一言で言えば、マーケット、他産業、人材等々にオープンな姿勢を持ち、ネットワークを構築できるような環境整備をすることによってはじめて成熟先進国型農業は実現できると言えよう。

Ⅲ 成長法則を踏襲した農政を展開すべき

   課題は、我が国が上記のような農業やそれを政策的に後押しする農政を意識的に目指せるかにある。

   中には、このような方向性は日本にはあわないという主張もある。それは外国、特にヨーロッパ諸国での経験であり、日本はアジアモンスーン地帯で特殊な農業地帯があるため、集落の秩序が大事でイノベーションは馴染まない、という日本農業特殊論がある。背景には、「稲作偏重農政」を正当化してきたロジックがある。

  はたして、欧州の経験は日本に適用できないのか、国内で検証してみようと思う。

   まずもって我が国の農業が活発な県の特定からはじめて見てみよう(図4)。

図 4

   日本で農業が活発な県はどこかと質問すると、多くの人は、北海道や、秋田県、新潟県など日本海側をあげることが多い。漠然と稲作地帯や北海道の広大な農地をイメージするからではないだろうか。我が国には農政だけでなく、農業というと稲作・水田と考える基盤があるようだ。

   農業が活発と言っても抽象的なので、ここでは、(1)農業産出額、(2)土地生産性、(3)労働生産性の三つの指標をあげ、この3指標のすべてが10位以内に入っている県を農業が活発な県と定義してみた。

   すると、3指標ともベストテンに入っている県は、千葉県、鹿児島県、宮崎県、愛知県で、2指標だと北海道、茨城県、熊本県になった。

   東北地方で上位にランクインするのは果樹や野菜の産出額が高い青森県のみで、東北・北陸などの稲作に依存する県は新潟以外ほとんど入っていない。「東北は食糧基地だ」と言う人もいるが、実際は農地面積が広いだけで産出額はそう高くない。

 千葉、鹿児島、宮崎、愛知の諸県、さらには北海道や茨城県などで農業が活発になっている理由を考えてみよう。

(1)顧客指向型農業

 まず、千葉、茨城に共通しているのが、大消費地東京に近いことである。市場対応型の顧客指向農業を行っている地域であり、愛知、静岡なども名古屋圏を対象にした同様の農業を行っている地域である。大市場が近いこともあって、自然に顧客指向型の農業を展開しえたと推測され、今では経営ノウハウの蓄積も厚く、愛知や静岡の農家は東京をも射程に入れるほどである。仮にもし国内に市場がなければ、世界から探してくることも考えているのではないだろうか。いずれも原料農産物生産よりも付加価値の高い農産物生産に前向きであり、そうした意味では、オランダや、デンマークの顧客指向型農業と同じ方向を見ていると言って良い。

(2)新規投資に前向きで生産性の向上を目指す農業

 宮崎、鹿児島は労働生産性の高い農業地域である。これらの地域は構造改革によってムダを排し、規模拡大によって生産性向上を図ろうとしている。鹿児島、宮崎の生産性の高さは畜産にある。両県とも名だたる畜産県だが、畜産はほぼ構造改革がなった生産性の高い産業である。肥育牛、繁殖牛の肉用牛農家数は8万戸しかない。それに酪農の2・7万戸を含めた牛飼い農家は10万戸程度、養豚農家となると6千戸もないだろう。養鶏農家にいたってはブロイラー2千戸程度、採卵鶏を含めても5千戸ほどしかない。しかし、ほとんどがプロの農業経営者で生産性の高い農家だ。結果として農業産出額が高くなっているということだ。

   ただ、これらの諸県では生産性は高いものの、販売や加工などの付加価値を高める努力は農家個々が個別に行っているケースが多い。肉畜加工業者や酪農メーカー、輸出と強い連携を築いているデンマークなど成熟先進国とはこうした点に違いを見せている。つまり食品メーカーなど企業との結びつきが弱い。

(3)他産業のノウハウ利用に柔軟な姿勢を持つ産業連携・融合型農業=脱一次産業化

  特に注目したいのは愛知の農業である。産業集積があり、他の産業のノウハウを取り入れ易い条件下にある。田原市や豊田市などは市町村別で日本一の農業生産額を誇っている。「JA愛知みなみ」は渥美半島に広がる農協だが、高度成長時代から関東圏の出荷もにらんだ一大農業地帯をつくり上げている。ハウスでの工程管理や集出荷のロジスティックスの構築がその背景にはある。象徴的に言えば、農業のトヨタ方式を早い段階から構築しており、トヨタのある産業集積地帯に、実は日本一の農業市町村が広がっているという構図だ。農業の「脱一次産業化」がはかられている地域といえよう。

   ただ、我が国の場合には、こうした他産業と連携・融合、ネットワークを構築する点にウイークポイントを抱え、愛知や静岡西部はある意味例外的な地域といっても良い。これまで農業界に内閉化してきた影響が強い。ヨーロッパの成熟先進国との大きな違いはこの点にある。

 

 以上をまとめると、有数の農業県には(1)市場対応ができる地域(千葉、茨城、愛知)(愛知、静岡)、(2)新規投資に前向きで生産性を意識できる地域(宮崎、鹿児島)、(3)産業集積が高く他の産業との垣根が低く融合産業化が進んでいる地域――という3つの特徴がある。農業が競争力のある産業になるには、顧客志向や他産業のノウハウを取り入れ、生産性の高いビジネスモデルを構築することが肝要ということになる。

Ⅳ 結局成長農業を実現するのは人

1. 農業経営者の新たなイメージを

   農業を成長軌道に乗せるには、どうしてもそのための人材が必要となる。通常「経営者」と呼ばれるが、農業の世界では「担い手」といわれ「農家」のことを指している。必要とされているのは、成熟先進国型農業を展開でき、農業を成長産業に出来る経営者である。現在の農業に必要とされているのは、経営ノウハウと資本力である。

   我が国農業の最大のウイークポイントで、最大の課題は、経営者とおぼしき人の数が少なすぎることである。一人一人のマネージメント能力の向上も含め、経営者を質量ともに増やさなければならない。

 図5は我が国の統計で「農業経営体」といわれる人々の数である。167万戸と結構多くの担い手が存在しているように見える。このうち50戸だけが「農家以外の事業体や農業サービス事業体」なので、「農業経営体」はイコール「販売農家」のことと考えて良い。ところが、「販売農家」あるいは「農業経営」といっているにもかかわらず。「販売なしの農家」が1割、50万円未満の「農業経営体」が3割と、あわせて4割が自給的農家によって占められている。我が国の農政のジレンマはこの辺にある。

図 5

 

2. 成長農業を担う経営者とは

   我が国には統計上三種類の農業経営体が存在している。

   第一は、販売額ゼロの農家から300万円未満までの農家である。年収にすると100万円に満たない農家群で、既に農業所得に生計の基盤はない。自給的農家といってよくほとんどが離農の方向にある。農水省の統計ではこれも「経営体」となっており、全経営体数の79%を占めている。我が国の農政としては、これらの人々を如何に農村共同体の一員として、農業就業してもらうかが大事なのだが、それは経営者として働いてもらうということではないというのが私見だ。

  第二は、販売額300万円以上5,000万円までの農家層である。農業所得にして150万円から2,500万円相当の農家であり、全体の2割に相当する。農村の中でも立派な農業者としてリーダーシップを発揮し、専業農家としての発言力がある人々である。

   他方、所得の過半を農業から得ている「主業農家」の数は、2010年時点で36万戸であることを考えれば、300万円以上の販売額を持つ農家数がちょうど35万戸で、この第二のグループが「主業農家」と考えて良い。農政は、およそ30万戸強の農業者を農業経営者としたいとしているが、そうだとするとこの人々は当然に該当する。いわば、これまで農政が担い手として育成しようとしてきた農家である。ただ、それにしても、300万、500万円という販売額は、「主業」というにはあまりにも少ないと言えよう。

   第三は、5,000万円以上の農家である。全国に14,866戸しか存在せず全体の1%にも満たない。これまで農政はこれらの農家をあえて対象とすることはなく、いわばひとりでに成長してきた人々だが、現実には我が国農業のリーディングカンパニーとなっている。

   この三つの中で、「成熟先進国型農業」を担えるのは、第三番目の人々である。もちろん、第二のタイプに存在しないとは言えないが、主に農業生産のルーティンワーカーが多く、これからの農業システム改革にチャレンジしうる人々との役割は異なっている。「成熟先進国型農業」を目指すには、この第三のタイプをどれだけ増やすかが大切となる。個人的には、彼らがこれから創り上げる農村文化にも期待したいと思っている。

3. 農業への参入をオープンにすることが大切

   しかし、第三のタイプは増加していない。増えない理由の一端は、イノベーティブな農業に背を向ける農村文化や、人材の参入に規制がかかってきたのが大きい。特に農地問題が新規参入のブレーキになっているが、私は、いつまでもこの問題が農業への参入規制になっていてはならないと考えている。

   第二次安倍政権は、法人経営体数を現在の約4倍の5万法人に増加させるKPIを発表した。2014年時点で、政権は農業経営者を中心とした農政に前向きな姿勢を見せている。その際に最も重要なのは、人材を農村内外に広く求めることであり、国民全体に農業経営者を募るのは喫緊の課題となっている。

   参入規制をなくし、農業をできるだけオープンなものにすることが大切だ。そうなれば、経営ノウハウや資金力の取得や経営の作り方もまたこれからはオープンなものになっていくだろう。企業が単独で入る方法もあれば、農家と企業とが一つの法人、例えば株式会社を作るパターンもある。どれを選択してもかまわないのではないか。私は、農家と企業とが共同で一つの農業会社を立ち上げるパターンも多くなるのではないかと感じている。お互いの強みを生かした経営形態を作ることが出来るからである。

   農業経営者のマネージメント能力の向上には、これまでのような農業教育ではもはや対応できなくなっている。技術教育は大事だが、資金や会計への関心、社会での多くのステークホルダーとのつきあい方など、社会性を持った経営者教育など、もっと大事な教育がたくさんある。グローバルな教養教育とMBAなどのビジネス教育は必須だろう。

   これからは農業だけでなく食品産業や販売事業など多様な事業展開が可能となっている。農業資源を最大限有効に利用する農業経営者は、江戸・明治の「農村自営業者」に匹敵するといってよい。雇用創出や販売額を高めることによって地域経済に貢献し、多くの人々に尊敬され、期待される「農村自営業者」を、我が国の農村は早急に大量に作り出さなければならないと考えている。