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TOP委員会・本部国際会議・その他研究レポート平成26年度平成27年01月 「地方創生のための提言~地方を変える・日本が変わる~」について

平成27年01月 「地方創生のための提言~地方を変える・日本が変わる~」について

岐阜県秘書課分権・広域企画室

1 はじめに

(1)政府の動き

   民間研究機関である「日本創成会議」の分科会が、平成26年5月にいわゆる「消滅可能性自治体リスト」を公表したが、これが契機となり、政府においても急速に人口減少対策の機運が高まった。

   安倍総理は地方創生が内閣の最重要課題であると随所で発言し、9月には、第2次安倍改造内閣発足と同時に地方創生担当大臣を設置するとともに、政府内に新組織である「まち・ひと・しごと創生本部」(以下「政府創生本部」という。)を立ち上げ、政府は名実ともに地方創生に向け取り組むこととなった。

   また、政府は、政府創生本部の活動を法制化する動きも行い、人口減少の抑制や東京一極集中の是正に向け、国が今後5年間の総合戦略を策定することなどを規定した「まち・ひと・しごと創生法」の制定を目指し取り組むこととなった。

   そして、政府は、この法案と、自治体が自ら新たな支援策を首相に提案する仕組みを創設する地域再生法改正案を「地方創生関連法案」として秋の臨時国会に提出し、これらの法案は11月21日に可決・成立した。

(2)知事会における対応

   こうした動きを受け、全国知事会は、9月22日、地方創生に関わりの深い委員会委員長、PTリーダーを本部員とした「地方創生対策本部」(以下「知事会創生本部」という。)を設置し、全国知事会が一体となって地方創生に向けた取組を行うこととした。

   そして、知事会創生本部においては、国における各種作業が急速に進むことが見込まれることから、早期に大筋の提言を取りまとめることとし、各都道府県に対する意見照会などを行ったうえで、10月16日に「地方創生のための提言~地方を変える・日本が変わる~」(以下「提言本編」という。)を取りまとめた。

   本稿では、まず、提言本編を大筋で解説する。

 

2 提言本編

   提言本編は、「基本姿勢」、「自立的な地方創生戦略の実効性確保」、「政策提言」の大きく3つの項目で構成されている。

   1番目の「基本姿勢」は、今なぜ地方創生が必要か、地方創生は国家的な取組であるべきであることなどを示したものであり、全体の導入部分及び提言骨子としての位置づけを持つ。

   2番目の「自立的な地方創生戦略の実効性確保」は、地方創生に取り組んでいくに当たり、解決すべき横断的な課題や望ましい手法を示したものである。

   3番目の「政策提言」は、地方創生に有効と考えられる個別具体の手法を示したものである。

   この3つの項目が一体となって、国に向けた第一段階の提言となっている。

   以下に、それぞれの具体の中身をより詳細に述べる。

(1)基本姿勢

   「基本姿勢」においては、我が国の人口減少の状況を解説するとともに、これが一過性の問題ではなく、息の長い取組を必要とする重要な課題であることを明示した。

   また、この人口減少に対しては、人口減少そのものにどう立ち向かっていくかという論点と、人口が減少する社会に対してどう立ち向かっていくかという論点の、2つのアプローチが必要と分析した。

   そして、このアプローチに当たっては、従来の右肩上がりの社会構造を前提とした政策では対応できないという問題意識を投げかけるとともに、人口減少時代に合わせた新たな価値観を生み出し、地域を新しく創り変え、日本全体を変えていくことこそが、構造的課題の解決としての「地方創生」の本義であると明示した。

   さらに、地域の状況の違いも踏まえながら、地域ごとに自主的・独自に工夫を凝らし、息長く、総合的な対策に取り組んでいく必要があるとの問題意識を示した。

   一方で、ややもすれば、地方創生が地域活性化の個別の取組の支援のみに終わることを懸念し、個別の取組への支援と並行して、国にあっては、東京圏一極集中の是正をはじめとする国土構造の変革に真正面から取り組まれることを期待する旨を提言したものである。

(2)自立的な地方創生戦略の実効性確保

   続いて、地方創生に当たって取り組むべき、いわば横断的な課題に関する提言である。

   まず、地方が創意工夫を凝らした取組を進めるに当たっては、地域の実情に通じた地方が自らの責任と判断で施策を実施できることが必要であるため、「自立と分権の推進」を提言した。

   先に国においては、地方分権改革が新たな局面を迎えたとし、委員会勧告に替わる新たな手法として、個々の地方公共団体等から地方分権改革に関する提案を広く募集し、それらの提案の実現に向けて検討を行う「提案募集方式」を導入し、募集を行った。提言本編をとりまとめた時点では、既に募集は終了し、8月29日に各府省からの「一次回答」が公表されていたところであったが、地方からの1千件近くの提案に対し、「実施」の回答が10件未満にとどまるなど、地方に失望感が広がり、今後の改革の見通しがみえなくなりかねない状況であった。そこで、これにしっかり取り組むよう提言を行った。

   加えて、地方がかねてから要望していた農地制度の見直し、ハローワークの地方移管について、とりわけ推進すべき案件として明記した。

   次に、地方創生は、全国の地方自治体が相互に限られた資源と知恵を共有し、県境、市町村境を超えて連携することが有効かつ不可欠であることから、地域間連携を支援する仕組みづくりについても明記するとともに、国・都道府県・市町村のそれぞれの自立的な取組と連携のバランスにも配慮すべきであること、あわせて、国と地方とが徹底した対話を行いながら取り組むべきであることを示した。

   さらに、地方創生の推進を支えるには、権限と併せて自立した地方税財政基盤の確保が必要であり、自由度の高い交付金等の創設と、新たな税制措置の創設を提言した。

   交付金について言えば、人口減少・少子化の流れに歯止めをかけ、地方創生を推進するためには、幅広い分野での思い切った政策の展開が不可欠であり、これに要する財源の確保等が必要である。そこで、各省の細かい補助金の寄せ集めではなく、地域の実情に応じ資金を効果的に活用できる包括的な交付金「まち・ひと・しごと創生推進交付金(仮称)」等を大胆な規模で創設すること、その使途については、目標管理するなど地方の責任において、幅広いソフト事業等に活用できるような制度とすべきであることを背景とした提言である。その額は毎年数千億円程度とすると同時に5年間程度これを確保し、息の長い支援を行うべきであることを示した。

   税について言えば、地方創生の実行に当たっては、地方への人の流れをつくる制度、子どもが多いほど有利になる制度、子育て等に伴う経済的負担の軽減に資する制度の創設等これまでにない新たな仕組みが必要であることから、企業の本社等の地方移転促進、若年層の経済的負担の軽減のための税制の創設など、具体の税制のモデルを提言したものである。

(3)政策提言

   政策提言は、地方創生に有効と考えられる個別具体の手法を、「育てる」、「創る」、「呼び込む」、「安らぐ」の4つのカテゴリに分け、提言したものである。

   それぞれなぜそのカテゴリの施策に取り組む必要があるのか、それによりどうした効果が期待できるのか等を示したうえで、例として、国が取り組むべき施策を示したものである。

   この4つのカテゴリは、政府創生本部が第1回会合で決定した「基本方針」において、各本部員が集中的に検討するとされた「検討項目」に掲げた5項目を基礎としつつ、分類したものである。すなわち、5つの検討項目は「地方への新しいひとの流れをつくる」、「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守る」、「地域と地域を連携する」であり、これらのうち最後に掲げた地域間連携については、提言本編においては「自立的な地方創生戦略の実効性確保」の項目で記載すべき事項と考えられることから、残りの4項目を軸としながら、4つのカテゴリを掲げたものである。

   そして、「育てる」においては結婚・出産・子育てに対する幅広い支援を、「創る」においては特に雇用の問題を、「呼び込む」においては地域にひと・企業・大学・政府機関等を呼び込む施策を、「安らぐ」においては暮らしの安全・安心の確保を重点的に記載した。

   個々具体の提言は、提言書本文を参照いただきたいが、特に意を用いたのは、地方創生の出発点である人口減少問題と一極集中問題に対応するため、それぞれ若年層への経済的支援など、子どもを産みたい人が産める環境をつくるための体制を整えるということ、そして、企業や政府機関の地方移転の推進など、地方への人の流れを生み出すということである。

   そのための施策として、「結婚や子育てを後押しする経済的支援制度の創設」、「ワンストップ型『移住・二地域居住促進センター』の設置」、「企業・大学・政府機関等の移転促進」などを提言している。

   なお、高速道路や整備新幹線等の整備、強靭化といった、いわゆる「ハード事業」にかかるものは提言していない。これは、こうしたハード面での整備の重要性や、整備に当たって国が果たすべき役割の重要性などは十分認識しつつも、今回、政府創生本部において検討する事項は、主には、ソフト面からの事業実施等であることが想定されたことから、提言本編には盛り込まなかったものである。

 

3 その後の動き

(1)提言活動

 提言本編作成後、知事会創生本部では、10月17日から23日にかけて提言活動を実施した。

 具体の提言先は、以下のとおりである。

○政府関係者

   菅官房長官、石破地方創生担当大臣、高市総務大臣、二之湯総務副大臣、小渕経済産業大臣、太田国土交通大臣

○与党

    自由民主党「地方創生実行統合本部」、公明党「活気ある温かな地域づくり推進本部」

   提言先の方々からは、「国と地方がじっくりと議論していかなければ結論が出ない問題もあり、地方創生が本格的に動き始めるには時間がかかるが、早急に取り組めるところは取り組んでいく」、「省庁の縦割りを排しつつ、規制緩和なども総合的に織り込みながら、地方創生に向けて努力していきたい」等の意見があった。

(2)各論編

①各論編の概要

 あわせて知事会創生本部においては、より具体の施策提言を行うべく活動を進め、11月5日に「地方創生のための提言~地方を変える・日本が変わる~【各論編】」(以下「各論編」という。)を取りまとめ、公表した。

 各論編は、「自立的な地方創生戦略の実効性確保」、「個別政策提言」の大きく2つの項目から構成されている。

 「自立的な地方創生戦略の実効性確保」は、提言本編の同名項目における、地方分権にかかる部分と地方税財政にかかる部分について、その背景を解説するなど、提言本編の記載をより詳細に示している。

 また、「個別政策提言」は、提言本編と同様、「育てる」、「創る」、「呼び込む」、「安らぐ」の4つのカテゴリに分け、個別具体の施策について提言を行ったものである。

 各論編では提言本編に比べ、より実践的な、個別具体の提案を実施しており、例えば「結婚や子育てを後押しする経済的支援制度の創設」という項目の下では、「多子世帯支援(第三子以降の幼児教育・保育料無償化など)」や「『結婚・子育て支え合い非課税制度(仮称)』の創設(高齢者から子・孫世代への自発的な資産移転を促進する、贈与税の非課税制度の要件緩和・対象資金の拡充)」といった内容を、また、「企業・大学・政府機関等の移転促進」に関しては「大学等の高等研究機関の地方移転の促進(地方移転した大学の運営費交付金等の増額、大学の地方での設置基準の見直し等)」や「企業が地方移転した際の税制優遇 (東京圏から地方に本社等の移転等を行う企業に対する国税・地方税の軽減制度の創設等)」などの提言を行っている。

②各論編の提言活動

 知事会創生本部では、各論編についても、11月5日及び6日に提言活動を実施した。

 具体の提言先は、以下のとおりである。

 ○政府関係者

     杉田内閣官房副長官、二之湯総務副大臣、

 ○与党

     河村自由民主党地方創生実行統合本部長

 

4 おわりに

   知事会創生本部による二度にわたる提言後、政府は「まち・ひと・しごと創生法」に基づき12月27日に国の「長期ビジョン」及び「総合戦略」を決定し、地方でも平成27年度にかけて地方版の「総合戦略」を策定していくこととなる。注1

   各地方公共団体においては、国及び各地域における地方創生の動きに注目しつつ、予算や地方分権の動向にも目配りしながら、所要の対策を行っていくことが求められるものと考える。


注1:「まち・ひと・しごと創生法」では、都道府県・市町村における総合戦略の策定を努力義務としている(同法第9条第1項及び第10条第1項)。