平成27年02月 新たな教育委員会制度について

文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課

地方教育行政専門官 石川仙太郎

Ⅰ はじめに

   平成26年6月13日、第186回国会において、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)が成立し、同月20日に公布された。

   改正法は、①首長による大綱の策定、②総合教育会議の設置、③教育長と教育委員長を一本化した新たな責任者(新教育長)の設置、④教育委員会のチェック機能の強化、⑤国の関与の見直しなどを盛り込んだものとなっている。以下、今回の改正に至る背景・経緯と改正法の概要について紹介することとする。

 

Ⅱ 改正に至る背景と経緯

1. 改正の背景

   教育委員会制度は、戦後の導入以来、各地方公共団体における教育行政の担い手として重要な役割を果たしてきている。一方、教育委員会の必要性やその活性化に関する議論は、これまでもさまざまな形で行われてきた。平成11年には、教育における団体自治を強化する観点から、教育長の任命承認制度の廃止等が行われた。また、教育における住民自治を強化する観点から、平成13年には、教育委員の構成の多様化の担保や教育委員会議の公開原則の規定等が設けられ、平成16年には、学校運営協議会が制度化された。そして、平成19年には、いじめや未履修などの問題に対する教育委員会の対応をきっかけとして、教育行政の責任体制の明確化を図る観点から、保護者委員の任命の義務化、合議体としての教育委員会が教育長に委任できない事務の法定、教育委員会の点検・評価の義務化、国の関与の強化などの改正が行われている。

   この間、地方分権や規制緩和といった政府の大きな政策課題の中で、教育委員会制度の廃止論や、教育委員会を設置するか否かを地方公共団体の判断に任せる選択制が議論されてきたが、19年改正は、教育委員会制度を維持しつつ、その責任体制の明確等を図るものとなった。

   その後、大津市のいじめ自殺事件など、児童、生徒の生命・身体に係る重大かつ緊急の事態が生じたにも関わらず、教育委員会会議が速やかに招集されないなど、教育委員会による責任ある迅速で的確な対応がなされなかったことをきっかけとして、今回の改正の議論が始まった。しかしながら、これは、個々の教育委員会だけの問題だけに帰着させるべきものではなく、現行の教育委員会制度における、①教育委員長と教育長のどちらが責任者か分かりにくい、②非常勤の委員を中心とする教育委員会ではいじめ等の問題に対して必ずしも迅速に対応できていない、③地域の民意が十分に反映されていない、④地方教育行政に問題がある場合に、国が最終的に責任を果たせるようにする必要がある、といった課題が顕在化したものであることから、制度の抜本的な改革が不可欠となったものである。

 

2. 改正の経緯

一 教育再生実行会議における議論

   まず、首相官邸に設置された教育再生実行会議において、いじめ問題に関する第一次提言に続き、教育委員会制度改革に関する議論を開始し、平成25年4月15日に「教育委員会制度等の在り方について」(第二次提言)をとりまとめた。この第二次提言では、主に以下の改革の方向性が示された。

   第一に、教育行政の責任体制を明確にするため、首長が、議会同意を得て直接任免を行う教育長を責任者とする。

   第二に、教育委員会の性格を改め、地域のあるべき姿や、基本方針について審議を行い、教育長に大きな方向性を示すとともに、教育長による事務の執行状況のチェックを行う。

   その上で、教育委員会で審議すべき事項とその取扱、教育委員の任命方法、教育長の罷免要件等の詳細な制度設計については、中央教育審議会における専門的な審議に委ねることとされた。

   教育再生実行会議の提言におけるポイントは、教育長を責任者とすることとする方向性が示されたこと、その一方で、教育委員会という機関の在り方が明確には位置付けられなかったことである。この点は、中央教育審議会における議論に委ねられた。

二 中央教育審議会における議論

   中央教育審議会における議論は、端的に言えば、教育行政の執行機関を、首長とするのか、あるいは引き続き教育委員会とするのか、が最大の焦点となった。すなわち、教育再生実行会議の「教育長を教育行政の責任者とする」という提言を実現するには、法律上、A案:教育行政の執行機関を首長とし、その補助機関(部下)として教育長を置く案と、B案:教育行政の執行機関を引き続き教育委員会とし、その補助機関(部下)として教育長を置く案という案の、主に2つの案が考えられた。

   どちらの案においても、教育再生実行会議の「教育長を責任者とする」という提言を実現するため、補助機関である教育長に独立性を持たせるという点で共通ではあったが、教育行政の執行権限は誰が持つのか、言い換えれば、教育長は誰の指示に基づき教育行政を行うこととするのか、という観点で、A案とB案で決定的な違いがあった。

   A案については、教育行政の責任が、福祉やまちづくり等他の行政分野と同様に、首長に明確化されるというメリットがあるものの、首長が教育行政の執行機関となる点について、首長の影響力が強くなり過ぎるのではないかという懸念があった。一方、B案については、教育の政治的中立性、継続性・安定性が確保されるというメリットはあったものの、教育行政の執行機関が引き続き教育委員会とされることについて、現行制度の課題が解決できないのではないかという懸念があった。

   中央教育審議会における議論では、主として首長、経済界、行政学者が首長への責任の一元化を求めてA案を、教育関係者、教育行政学者が教育の政治的中立性、継続性・安定性の観点からB案を主張し、答申においては、A案を改革案としつつも、B案を別案として示し、中央教育審議会答申としては異例ではあるが、ほぼ両論併記に近い答申がとりまとめられることとなった。

三 与党協議

   通常、文部科学省としては、中央教育審議会の答申を踏まえ、法改正作業に入るのであるが、中央教育審議会の答申では案が一本化されず、また、与党内にも様々な意見があったことから、これも異例ではあるが、自民党内に小委員会をつくって自民党案がまとめられ、その後に自民党と公明党とのワーキングチームをつくって与党協議が行われることとなった。

   自民党の小委員会では、現行制度の歴史的沿革や趣旨に遡り、改正案において教育長を首長が任命することとするかという論点から議論を始めるなど、一つ一つの論点ごとに合意形成を図る丁寧な議論が行われた。そのような議論の結果として、教育の政治的中立性、継続性・安定性を確保しつつ、責任の明確化、民意の反映という教育委員会制度の課題を解決するための方策として、教育委員会を執行機関として残した上で、教育長を教育委員会の構成員とし、その代表者とすること、また民意を代表する首長との連携を強化するため、「総合教育施策会議」を設置すること等、今回の改正案につながる主要なポイントが提言された。

   その後、自民党と公明党の間での与党協議が開始され、自民党案をベースとしつつ、合議体としての教育委員会の役割を重視する観点から、修正が加えられ、教育委員による教育長へのチェック機能を強化することが提言された。このような経過を経て、平成26年4月4日に改正法案が閣議決定された。

四 国会審議

   この改正法案は、国会審議でも大きな議論となった。特に、民主党と日本維新の会は、政府案に対し、教育委員会を廃止して、教育行政の執行機関を首長とする法案を共同で提出して、論戦が行われた。国会審議は、衆議院・参議院あわせて70時間以上に及び、平成26年6月13日に参議院本会議で賛成多数により可決成立し、同年6月20日に公布された。

 

Ⅲ 改正の概要

1. 新教育長の設置

   現行制度においては、教育委員会の中に委員会の主宰者である委員長と事務の統括者である教育長が存在し、どちらが責任者かわかりにくいという課題があった。新制度では、両者を一本化した新たな責任者(新教育長)を置き、新教育長は、「教育委員会の会務を総理し、教育委員会を代表する」こととした(第13条第1項)。「教育委員会の会務を総理」するとは、改正前の地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下単に「現行法」という。)における委員長の職務である「教育委員会の会議を主宰」すること(現行法第12条第3項)並びに現行法における教育長の職務である「教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどる」こと(現行法第17条第1項)及び「事務局の事務を統括し、所属の職員を指揮監督する」こと(現行法第20条第1項)を意味するものである。これにより、教育行政の第一義的な責任者が新教育長であることが明確になる。

   また、現行制度では首長はあくまでも教育委員を任命するにとどまり、委員長や教育長は教育委員会が委員の中から選ぶという制度であるため、任命責任があいまいになっているという課題があった。新制度では、首長が、教育長を議会の同意を得て直接任免することとした(第4条第1項)。これにより、首長の任命責任が明確化されることとなる。

   さらに、現行制度では、教育長は教育委員としての任期の間在任し、委員でなくなったときはその職を失うとされ、事実上4年の任期となっていたが、新制度では任期が3年となった(第5条第1項)。これは、①首長の任期(4年)よりも1年短くすることで、首長の任期中少なくとも1回は自らが教育長を任命できること、②教育長の権限が大きくなることを踏まえ、委員よりも任期を短くすることで、委員によるチェック機能と議会同意によるチェック機能を強化できること、③計画性を持って一定の仕事を行うためには3年は必要と考えられたことによる。

2. 教育委員によるチェック機能の強化と会議の透明化

   今回の改正では、新教育長が教育委員会の代表者となり、その権限が他の教育委員と比較して大きくなる。一方で、新教育長は、執行機関である教育委員会の補助機関ではなく、教育委員会の構成員であり、代表者であることから、教育委員会による教育長への指揮監督権は法律上規定されていないが、教育委員会は引き続き合議体の執行機関であるため、教育長は教育委員会の意思決定に基づき事務をつかさどる立場にあることに変わりはなく、教育委員の役割は重要である。そこで、教育委員による教育長のチェック機能を強化する観点から、教育委員定数の1/3以上からの会議の招集の請求(第14条第2項)や、教育長が委任された事務の管理・執行状況の報告義務(第25条第3項)に関する規定が新設された。

   また、教育委員会会議の透明化や住民によるチェックの観点から、会議の議事録の作成・公表を努力義務とした(第14条第9項)。努力義務にとどめたのは、小規模な地方公共団体における事務負担を考慮したものであり、原則として、会議の議事録を作成し、ホームページ等を活用して公表することが強く求められる。

   これらにより、権限が大きい教育長へのチェックが適切に果たされるとともに、教育委員会の審議の活性化が図られると考えている。

3. 総合教育会議の設置

   現行制度においても、首長は教育委員の任命や予算の編成・執行、条例提出権等、教育行政に関する権限を持っているが、首長から独立した行政委員会である教育委員会が教育に関する執行権限を有しているために、教育について関与することは遠慮する傾向があったほか、教育委員会の側も、首長の意見を聴く機会を十分に設けていないという現状があった。

   このため、首長と教育委員会が、十分な意思疎通を図り、地域の教育課題やあるべき姿を共有して、より一層民意を反映した教育行政を推進するため、首長と教育委員会が協議を行う場として、全ての地方公共団体に総合教育会議を設けることとした。

   総合教育会議は、審議会や決定機関ではなく、首長と教育委員会という対等な執行機関同士の協議・調整の場であり、首長と教育委員会は、総合教育会議で協議・調整し、合意した方針の下に、それぞれが所管する事務を執行することとなる。

   また、総合教育会議における協議・調整事項は、①教育行政の大綱の策定、②教育の条件整備など重点的に講ずべき施策、③児童、生徒等の生命・身体の保護等の緊急の場合に講ずべき措置、としているが(第1条の4第1項)、教育委員会制度を設けた趣旨に鑑み、個別の教科書採択、個別の教職員人事等、特に政治的中立性の要請が高い事項については協議題とするべきではないと解されている。一方、教科書採択の方針、教職員の人事の基準については、予算等の首長の権限に関わらない事項であるが、自由な意見交換として協議を行うことは考えられる。

   なお、総合教育会議は、あくまで協議の場であり、教育委員会の執行権限は従来どおり変わっていないため、首長が一方的に教育政策を決定し、実行できるということではなく、調整のついていない事項の執行については、第21条(現行法第23条)及び第22条(現行法第24条)に定められた執行権限に基づき、教育委員会及び首長それぞれが判断することとなる。

4. 大綱の策定

   首長と教育委員会との連携を強化し、首長が教育行政に連帯して責任を果たせる体制を構築するため、首長は、当該地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策の大綱を策定することとしている(第1条の3第1項)。これにより、地域住民の意向の一層の反映と地方公共団体における教育、学術及び文化の振興に関する施策の総合的な推進を図ることとしている。

  大綱は、地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策について、その目標や施策の根本となる方針を定めるものであり、詳細な施策について策定することを求めているものではない。大綱の主たる記載事項は、各地方公共団体の判断に委ねられているものであるが、主として、学校の耐震化、学校の統廃合、少人数教育の推進、総合的な放課後対策、幼稚園・保育所・認定こども園を通じた幼児教育・保育の充実等、予算や条例等の首長の有する権限に係る事項についての目標や根本となる方針が考えられる。また、大綱が対象とする期間については、法律では定められていないが、首長の任期が4年であることや、国の教育振興基本計画の対象期間が五年であることに鑑み、4年~5年程度を想定している。

   大綱の策定権は首長にあるが、教育行政に混乱を生じることがないようにするため、総合教育会議において、教育委員会と十分に協議・調整を尽くすことが求められる。首長が、調整がついた事項を大綱に記載したときは、首長及び教育委員会の双方に当該事項を尊重する義務が生じ(第1条の4第8項)、策定した大綱の下、それぞれ所管する事務を執行していくことになる。一方、首長が教育委員会と調整がついていない事項を大綱に記載したとしても、教育委員会は当該事項を尊重する義務を負うものではなく、第21条(現行法第23条)に定められた教育に関する事務の執行権限に基づき、教育委員会が判断することになる。

5. 国の関与の見直し

   現行法第50条は、平成19年改正において、いじめによる自殺等の事案において、教育委員会の対応が不適切な場合に、文部科学大臣が教育委員会に対して是正の指示ができるよう設けられた。

   しかしながら、大津市におけるいじめによる自殺事案の際に、「児童、生徒等の生命又は身体の保護のため」という現行法の要件については、当該児童、生徒等が自殺してしまった後の再発防止のためには発動できないのではないかと疑義が生じた。

   このため、事件発生後においても同種の事件の再発防止のために指示ができることを明確にするため改正したものである。つまり、今回の改正は、あくまで要件の「明確化」のための改正であり、要件を追加して国の関与を強化するものではない。

6. 経過措置等(附則)

   改正法は一部の規定を除き、平成27年4月1日から施行することとされている(改正法附則第1条)。

   一方、改正法の施行の際現に在職する教育長は、その教育委員会の委員としての任期中に限り、なお従前の例により在職するものとしている(改正法附則第2条第1項)。また、この場合において、現行法第2章等の関係規定は、なおその効力を有することとしている(同条第2項)。 

  現行法では、教育長職は、教育委員としての任期中(4年間)在任するものとされており(現行法第16条第2項)、また、教育長は、教育委員会の実務の責任者として、4年間を通じて施策を計画的に構想、実施していることが通例であることから、一律に制度移行を行うと現場に混乱が生じるおそれがあると考えられたため、施行日において、在任中の教育長については、その教育委員としての任期が満了するまで、現行制度の教育長として在職するものとし、徐々に新制度に移行していくこととしたものである。これにより、旧制度から新制度への教育の継続性・安定性の確保を図ることとしている。

Ⅳ おわりに

   今回の改正によって、都道府県知事の教育行政における役割がより一層重要となった。新教育長の任命、大綱の策定、総合教育会議の開催といった改正法に基づく事務だけでなく、従来からの教育委員の任命や予算の編成など様々な場面で、教育委員会に対してより一層のご支援をいただくことを期待している。