コウノトリを育む豊かな里地里山を目指して

 今から40年前、福井県武生(たけふ)市(現在の越前市)の白山・坂口地区に1羽のコウノトリが飛来しました。この地区は、フナやドジョウなどがすむ湿田が広がっており、餌場として適していたようです。
 飛来したコウノトリは「武生(愛称コウちゃん)」と名付けられ、住民ぐるみの温かい保護が行われました。しかし、下くちばしが折れていたこともあり、コウノトリの飼育で実績のある兵庫県豊岡市の人工飼育場(現在の兵庫県立コウノトリの郷公園)に引き取られ、1羽の娘を残し、2005年にその生涯を終えました。
 「武生」の飛来から40年ぶりとなる今年4月、同じ越前市に雄雌2羽のコウノトリが飛来しました。そのうち雌のコウノトリは、越前市の餌場がお気に召したのか、7月まで107日間も長期滞在し、地域住民からは「えっちゃん」という名で親しまれました。
 福井県では9月にも、若狭町に4羽の飛来を確認するなど、この1年で延べ24羽を数えました。
 国の特別天然記念物であるコウノトリは、生息する環境に敏感です。
 そこで福井県では、コウノトリを自然再生のシンボルとして位置付け、兵庫県の協力を得ながら、熱意のある地元とともに生息環境の整備を進め、県内での放鳥・定着を目指すことにしました。そのため、地元と餌場環境を整備し、コウノトリの好物であるフナやドジョウ、カエルなどの生息環境を整備することにしています。
 一方、10月に名古屋市で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)では、福井県ブースにおいてコウノトリを呼び戻す活動などをパネルで紹介したほか、越前市の農家有志からは「コウノトリ呼び戻す農法米」が提供されました。
 この有機米で握ったおにぎりを竹の皮で包み、「里山弁当」として期間中の式典で提供したところ、出席者からは味も外観も好評でした。
 さらに11月には、「武生」が飛来して40周年を記念する式典が地元住民や自然保護団体により開かれました。「武生」の孫に当たる「唐子(とうこ)」が平成9年に放鳥後に餌不足で餓死したことが紹介され、生息環境を整え、維持していくことの大切さと難しさを参加者らは改めて認識しました。
 福井県では、こうした生物多様性に関する保全活動を資金面から支援するため、新たな募金制度を創設しました。行政のみならず、企業や団体、個人からも広く募金を募り、これらを原資として、生き物の生息環境を保全・再生する活動を行う団体に交付することにしています。
 40年前、「武生(コウちゃん)」が選んだ福井県の自然環境。赤ちゃんを運んでくると言われる幸せの鳥コウノトリの活動を通じて、自然と人間の暮らしが適度に両立した里地里山を、私たちが未来に運んでいくことを目指していきます。

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今年4月に飛来したコウノトリ「えっちゃん」