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タイトル | 地域で育つ学校「杉の子バスの店」の取組 |
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施策・事業名称 | 地域で育つ学校「杉の子バスの店」の取組 |
都道府県名 | 三重県 |
分野 | 教育・文化 |
事業実施期間 | 令和3年11月26日~ |
施策のポイント |
三重県立杉の子特別支援学校では、児童生徒の通学のために6台のスクールバスを運行しています。スクールバスの乗降場所(スクールバスの乗り入れと保護者駐車場)として、来客用の駐車場を無償で提供していただき、スクールバスの安心・安全な運行に協力をお願いしている商業施設(店舗)があります。 「杉の子バスの店」は、協力いただいている商業施設に少しでも感謝を伝えたいという気持ちから、スタートしました。 協力していただいている商業施設は、鈴鹿と亀山の両市に点在しています。その点在している協力店を「杉の子バスの店」として、「線」で結び、1つの「輪」にする取組です。「杉の子バスの店」として、学校は感謝の気持ちを伝えます。一方、商業施設は地域への貢献をアピールすることができます。 この取組を通して「学校」と「地域」が、「商業施設」と「学校」が持続的な関係を築いていけることを願っています。それが、杉の子特別支援学校のめざす「地域で育つ」学校の姿であると考えています。 |
内容 |
【取組概要】 スクールバスの乗降場所として協力をいただいている商業施設に対して、感謝の気持ちを伝えたり、その施設の地域貢献が広く知らされたりする取組がされていませんでした。 そこで、「杉の子バスの店」という企画を立ち上げました。協力していただいている商業施設を「杉の子バスの店」として、1つの「輪」にします。この「輪」は、「チーム杉の子」と呼んで差し支えないでしょう。「杉の子バスの店」は、協力いただいている商業施設に、感謝の気持ちを届け続ける取組です。 感謝の文字を児童生徒が書き、スクールバスのイラストを入れたステッカーやA4サイズのポスター、木製ミニスタンドを作りました(ポスター用の木製フレーム、木製ミニスタンドは高等部生徒が製作)。それらを協力いただいている店舗の出入口などに貼ったり、カウンターに置いたりしてもらうこととしました。 「杉の子バスの店」の内容や方向性、スクールバスの運行については、学校ホームページで紹介し、取組が始まったことをPTA通信で保護者にお知らせしました。 取組をスタートさせるにあたり、セレモニーを乗降場所として協力をいただいている鈴鹿市内のショッピングモールで行いました。取組の内容とセレモニーの様子は、新聞4社、ケーブルテレビ局、地元FM局を通じて報道していただきました。学校の感謝の気持ちと商業施設の地域に対する貢献を一般の方々に知っていただく機会となったと感じています。 【現状や課題、設定した目標】 三重県立杉の子特別支援学校は、令和4年度現在、鈴鹿市加佐登にある本校(以下「本校」)と、4キロメートルほど離れている県立石薬師高等学校に隣接する知的課程の高等部(以下「分校」)に分かれています。令和5年度には、中学部の知的課程生徒が石薬師にある分校に移転します。同時に、鈴鹿・亀山地域の肢体不自由の児童生徒を本校に受け入れることになります。 中学部が移転することで、スクールバスの大幅なルート変更が予想されます。また、肢体不自由の児童生徒が通学するにあたり、利用するスクールバスはリフト付きとなります。リフトを使った乗降には広いスペースと、リフトを稼働するための停車時間が必要です。 現在、コンビニエンスストアの来客用駐車場を利用させていただいているバス・コースがあります。その場所では、朝の時間帯や雨天時には、バス添乗員の気持ちが焦ることを避けられません。 一方で、既に利用している店舗や公的施設から駐車場の利用を断られることがありました。担当者が新たな乗降場所を探し、その依頼に奔走することとなります。 安全で安心な乗降場所を新規で見つけることはもちろん、利用を続けられるように施設へ働きかけることも課題です。 この課題と正面から向き合うことで、スクールバスの乗降場所として協力していただいている商業施設に対して、感謝の気持ちを十分に伝えることができていないことに気づきました。つまり、感謝の気持ちを改めて伝える必要があることに至りました。 感謝の気持ちを届ける取組を続けることで、駐車場を提供していただいている店舗は、この先も協力を惜しまないのではないか、また乗降場所が必要となったときに新たな協力を得やすいのではないかと考えます。 商業施設と持続性のある関係を築いていくことが、「地域で育つ」学校へとつながると思っています。 【取組の検討プロセス、改善点等】 「行動経済学」における「ナッジ」という手法を使い、取組を進めることにしました。 「ナッジ」とは、「法的な規則や罰則を設けるなど選択の自由を奪うようなことはせず、しかもコストをかけず、人々をより良い行動へと緩やかに導いていく」という考え方です。 そこで、「杉の子バスの店」が、期待する「より良い行動」とは、下記の3つです。 ・保護者や教職員がその店で買い物をする。 ・買い物など店舗を利用したついでに、お礼を言う。 ・商業施設が協力を受け入れやすくなる。 「ナッジ(nudge)」とは英語で、「そっと背中を押す」という意味です。もし、ここでナッジを使わないのであれば、スクールバスの利用者は「お礼を言う」、「買い物をする」といったルールを設けることにもなりかねず、少々乱暴な話になるのかもしれません。しかし、我々はナッジを使って、そっと背中を押し、期待する「より良い行動」へ緩やかに導きます。 では、「誰の背中を」「どのように押すのか」。取組内容の説明をします。 「杉の子バスの店」の3つのナッジです。 (1)スタート 「いつもありがとうございます」という言葉とスクールバスのイラストが入ったステッカーを作りました。A4サイズのポスター、ミニスタンドにも同じデザインを充てました。教職員だけの取組とならないよう、ステッカーの文字は本校児童生徒が書いたものを使い、分校の木工班がA4サイズの木製フレームや木製ミニスタンドを製作しました。 それらを協力していただいている商業施設にお願いして、出入口や総合案内のカウンターなどの人目につきやすいところへ貼ったり、置いたりしていただきました。これが前述の「杉の子バスの店」が期待する3つの「より良い行動」への縦軸となります。 ステッカーやポスターが貼ってあることで、事業主だけでなく店舗のスタッフにも、その店舗の駐車場が、杉の子特別支援学校のスクールバス乗降場所であることを知っていただけます。働いている職場が地域貢献をしていることに気づいてもらえます。 一方、教職員や保護者は、どのような時間帯であっても、どの店員さんにでも、お礼が言いやすくなります。つまり人が人に直接お礼をいうことを実現できます。 (2)協力店を「杉の子バスの店」とすることにより、次のような利点が生まれます。 学校のホームページに掲載することができる。PTA通信に掲載することができる。児童生徒が積極的にその店舗を利用することにつながる。商業施設が自身の地域貢献をアピールしやすくなる。 (3)スターティング・セレモニーを報道各社に取り上げてもらう。 我々の取組について、広く知っていただく機会にできる。協力していただいている商業施設を広く一般に知ってもらうことができる。 【効果・成果】 取組を始めてから、耳にした言葉をいくつか紹介させていただきます。校外学習など、児童生徒の弁当の注文先は、「杉の子バスの店」から選んだ。プライベートで「杉の子バスの店」を利用した際、「いつもありがとうございます」と言った。ステッカーが貼ってあって、お礼が言いやすかった。「杉の子バスの店」の紹介ページを見て、美容室を替えた。ステッカーの貼ってあるコンビニエンスストアのレジでお礼を言ったら、スタッフから思っていた以上の笑顔が返ってきた。嬉しかった。新規の乗降場所を依頼する際、「杉の子バスの店」の話をすると、スクールバス運行のイメージを持っていただきやすくなったと感じる。 「杉の子バスの店」の真の狙いは、我々杉の子特別支援学校の「教職員の行動変容」です。併せて「保護者の行動変容」です。ステッカーやポスターを貼り、ミニスタンドを置くこと、さらに学校ホームページやPTA通信に掲載することで、教職員と保護者の背中をそっと押します。教職員や保護者が、協力いただいているショッピングモールやコンビニエンスストア、美容室などを訪れたとき、お礼が言いやすくなるということです。言えなかった、あるいは言いにくかった感謝の気持ちが伝えられるようになるという行動の変化こそが、「杉の子バスの店」のナッジがめざすところです。教職員と保護者が変われば、学校が変わります。「地域で育つ」学校へと変わっていけるのだと思います。 協力店には、「地域に貢献をしている心地よさ」であるとか、「ステッカーやポスターが貼ってあってよかったという喜び」を味わってもらえればと思っています。併せて、商業施設が自身の地域貢献についてアピールをしやすくなれば、協力している側(店舗)にもメリットを感じてもらうことができます。「チーム杉の子」が、さらに強固なものとなるでしょう。 「地域」と「商業施設」は、店舗の努力などにより、すでにつながっているのだと感じています。しかし、「学校」は、その関係からは少し取り残されがちです。「杉の子バスの店」の取組を通じて、「学校」と「地域」が、「商業施設」と「学校」が持続的な関係を築いていけることを願っています。 最後に「杉の子バスの店」の今後について、話をさせていただきます。 「杉の子バスの店」は、継続していかなければ意味のない取組です。令和4年度、新たに協力していただける店舗を、いくつか加えることができました。ステッカーやポスターの掲示をお願いし、学校ホームページの更新を行っています。 この取組は、まだ途上であり、この先も長い道のりが待っていることを、我々は知っています。今後も教職員や保護者、その他関係者に対して、アピールをしていく必要があります。お礼を言う機会を増やすこと、さらにそこから会話が弾むことが、我々の取組がめざすところであり、地域で育つ学校の姿であると考えます。 【工夫した点や苦労した点】 苦労したことについては、頭に浮かぶことが2つあります。 1つ目は、報道機関への働きかけです。メディアに取り上げてもらうためには、鈴鹿市役所の記者クラブに資料を配付するだけでは、十分ではないことがわかりました。しかし、できるだけたくさんのメディアに取り上げてもらいたいと思い、記者クラブに登録しているメディアに対し1社ずつ電話であたりました。メディアの力は大きく、この取組、あるいは協力していただいている商業施設の地域貢献を強くアピールすることができます。しかし、どれだけのメディアが我々の取組に関心を寄せてくれるのか、不安でした。果たして、前述のように数社が、我々の取組を取り上げてくれました。胸をなで下ろしたことを覚えていますし、今でも報道していただいたことへの感謝の気持ちは、忘れておりません。 また、学校としては、児童生徒を前面に出した報道内容を希望しました。記者からのインタビューや写真撮影の経験が、児童生徒の成長につながると考えたからです。後日、高等部生徒の保護者からは「いい経験になった」と伺いました。小学部の児童は、それまで以上に自信を持って活動しています。 2つ目は、ステッカーの製作です。室内で使用するシールとは違い、店舗の出入り口に貼るステッカーは紫外線による退色に、ある程度耐えるものでなくてはならないことがわかりました。印刷業者の方と何度も検討をして、納品に至りました。 工夫をしたことは、2つあります。 まずは、ステッカーと同じデザインで、A4サイズのポスター(木製フレーム入り)と木製ミニスタンドを作ったことです。「商業施設」と言っても、業種、店舗の形態はさまざまです。大型店舗には、壁面にA4サイズの木製フレームを掲示することや、総合案内のカウンターにミニスタンドを置くことをお願いしました。しかし、小規模の店舗や個人経営の店舗には、無理なお願いになると予想されました。「業務の支障にならない範囲で」、「店舗の美観をそこねないように」と依頼ができるように、同じデザインで3種類のアイテムを用意しました。 つぎに、学校ホームページに二次元コードでアクセスすることができるようにしたことです。 取組を学校ホームページに掲載し、PTA通信には二次元コードを貼り付けることで、保護者がスマートフォンやタブレットから直接「杉の子バスの店」のコーナーにアクセスできるようにしました。このコーナーでは「杉の子バスの店」の内容や方向性、ステッカーへの思い、掲載された新聞の記事を見ることができます。 また、この二次元コードをスクールバス担当者の名刺や乗降場所の依頼に行く際の封筒の裏にも貼ることで、コストを抑えつつ、広く知ってもらえるようにしました。 |
関連 ホームページ |
http://www.mie-c.ed.jp/ssugin/sugibus/ |
本件問合先 | 三重県立杉の子特別支援学校 |
059-379-1611 |