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TOP委員会・本部国際会議・その他研究レポート平成26年度平成26年06月 来るべき巨大災害に備えて ~地方自治体間の広域応援について~

平成26年06月 来るべき巨大災害に備えて ~地方自治体間の広域応援について~

画像:法政大学大学院講師(板橋区議会事務局長)鍵屋 一法政大学大学院講師
(板橋区議会事務局長)鍵屋 一

 

1  自治体間連携と災害対策基本法の改正

   自治体間連携の強化を意識して、平成25年6月に「災害対策基本法の一部を改正する法律」が成立した。

  その内容は「地方公共団体間の応援規定について、都道府県による調整規定を拡充し、国による調整規定を新設するとともに、消防、救命・救難等の人命に関わるような緊急性の極めて高い応急措置(応諾義務あり)に限定されている対象業務を、避難所運営支援、巡回健康相談、施設の修繕のような応急対策一般に拡大する。」「国・地方公共団体、民間事業者も含めた各防災機関は、あらかじめ地域防災計画等において相互応援や広域での被災住民の受入れを想定する等の必要な措置を講ずるよう努めなければならないこと等を規定。」(強調は著者)

   しかし、仮に東日本大震災以前にこの法律があったとして、壊滅的な被害を受けた市町村の代行を県や国ができただろうか。大災害になると被災地域が広範なため、市町村職員だけで対応はできず、県も国も直ちにその役割を果たすことは困難だ。被災自治体に必要なのは、災害対応業務に習熟し直ちに支援に駆けつけてくれる人材と、それを可能にするシステムである。そこで、本稿では、自治体間の広域応援の中でも、特に重要な人材の支援について検討する。

2 東日本大震災における応急対策期の広域連携

 応急対策期の広域連携では、以下の先進的事例が注目される。

 (1)専門機関の広域連携

   東日本大震災では、消防、警察、自衛隊、国交省、水道、ガス、電気など広域連携できる組織の力が光った。常磐大学の重川によれば共通して次のような特徴をもっている。

ア. 事前に法制度で位置づけがある。明文化、詳細な活動計画の事前作成

イ. 派遣職員の事前登録、組織化が図られている

ウ. 派遣手順、指揮命令系統が事前に定められている

エ. 職制(階層)に応じてやるべき業務(所掌業務)、権限(決定権)が明確になっている

オ. 現場に権限が委譲され、現場レベルでの組織間の情報共有はなされた

カ. 業務の多くは平常業務の延長線上にある

キ. ロジスティックスの充実

(2)応急対策期の自治体間連携の強化策

   自治体間連携で比較的、成功したのが「対口支援」「パートナー支援」「スクラム支援」などと呼ばれる「一つの被災自治体を、特定の自治体が責任をもって支援する」仕組みである。それは、支援する職員の頭数だけでなく、引き継ぎなどの被災自治体の負担軽減、それに人と人、まちとまちとの顔の見える関係をも取り込めるからだ。 

  他に、支援体制の先進事例として、鳥取県の「災害時緊急支援チーム」がある。これは、災害時に県内の市町村を支援するため、県幹部職員等によりを組織され、日常から研修・訓練を行っている。5名(事務要員(管理職)、事務要員(係長以上)◾土木技師◾建築技師◾保健師各1名)が1チームとなり、11チームが編成されている。

   現在、全国知事会では、このような仕組みを参考に全国の都道府県がそれぞれにパートナーを決め、大災害時に相互に支援する仕組みを検討している。

3 復旧復興期の自治体間連携による人的支援

(1)人的支援の必要性と法改正

   震災直後の応急対策は、災害対策法制度上で国や府県の関与や他自治体が応援要請への応諾の努力義務がある。これに対し、中長期的な災害復旧復興事業は被災自治体に実施責任があり、他の自治体が応諾の努力義務がなかった。

   しかし、現実には復旧復興事業には多くの経験ある職員が必要であり、他自治体からの人的支援なしには立ち行かない。そこで、平成25年6月「大規模災害からの復興に関する法律」では、復旧・復興期における人的支援について初めて規定し、派遣要請を受けた国や自治体の努力義務を定め、平成28年8月に施行される。

 (2) 総務省の調整

   平成24年11月の総務省の通知[i]では、「(前略)各地方公共団体におかれましては、被災市町村の窮状をご賢察いただき、下記の事項にも留意し、被災市町村に対する人的支援について、なお、一層のご理解とご協力を賜りますよう改めてお願いいたします。」そして、同日付で岩手県政策地域部長からは285名、宮城県総務部長から860名、福島県総務部長から235名の派遣要請が行われた。総務省は、各自治体に厳しい定員管理を指導しながら、他方で被災地への人的支援を依頼する微妙な立場にある。

 (3)宮城県市町村関係職員確保アクション・プラン

   宮城県の「市町村復興関係職員確保アクション・プラン」(平成25 年6 月)は現実的かつ網羅的に検討・整理されており、復興期の職員確保のモデルになるものと考える。

   同プランは次の3 項目で構成されている。

ア. 「市町村震災関係職員確保連絡会議」の設置

イ. 市町村における復興関係職員の不足状況の把握

ウ. 復興関係職員の不足を解消するための取組

このように被災市町村ごとに不足職員数を見える化し、職員確保策、業務軽減策を示すことで、職員の充足を図るとともに市町村間の格差の縮小、公平性の確保にもつながる。

4 災害後の業務量の増加に対応する職員増員の制度設計

   今後の日本を襲う南海トラフ地震や首都直下地震、火山噴火災害などの巨大災害においては、一時的に大量に発生する復旧・復興業務に対して、自治体職員をいかに増加させ、同時に復興事業が終了した後に、いかに適正規模に戻す制度を設計するかが本質的課題である。

   これに対して、既存の取組では「全国の市町村職員OBの活用」と「民間企業等からの人的支援」が有効である。これに加えて「大学院生の活用」「指南役による支援」を提案する。

(1)自治体職員OBの活用

   職員OBについては、当初からその経験を活かしての被災地への派遣が、いわば自然発生的に行われてきた。

   平成24年4月、東京都は被災地における技術系職員不足の課題に対応するため、行政経験者や民間経験者を「一般任期付職員」として採用の上、地方自治法に基づき被災市町村に派遣する新たなスキームを導入した。これは「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」に基づき、支援自治体が任期付きで自治体職員のOBなどを再任用職員として採用し派遣する方式である。

   このような即戦力となる現役やOBの職員を確保する例として、神戸市の人材データベース「神戸市職員震災バンク」がある。阪神・淡路大震災で復旧・復興業務に携わった職員約3,500人の氏名や所属を網羅して登録している。さらに「災害対策本部の運営」「避難所の設置・運営・閉鎖」「仮設住宅」などに分類された業務内容を登録し、「避難所」「仮設住宅」などとキーワードを入力すると経験者が分かり、素早く派遣できるようになっている。

(2)民間企業等からの人的支援

   総務省は平成25年3月1日付の通知[ii]で、民間企業や自治体の第三セクター等(土地開発公社等の地方三公社、財団法人等)の従業員を在籍したまま被災自治体が受け入れる際の留意事項等を明らかにした。

ア. 民間企業等の協力を得て、民間企業等の従業員の身分をもったまま、被災自治体の職員として採用することができること。

イ. 被災自治体が負担する民間企業等からの職員の受入れ経費(給料等)について震災復興特別交付税により全額措置することとしていること。

   この通知は、東日本大震災の復興業務支援に限定されているが、有効な手法となれば、今後の大災害対応でも同じように取り扱われることは間違いない。

(3)大学院生の活用

  大学院生にとっては、自治体の災害復興業務への従事はまたとないインターンシップだ。ただ、大学院生は卒業単位の修得や修士論文を書いたりするために、講義のある時期には大学院に戻らなくてはならない。

    しかし、多くの大学院生は、将来的には研究者ではなく、実務者として企業や公共機関で働く。復興業務への従事を大学院の単位として積極的に認定し、同時に稼働収入を得て社会人としてスムーズな出発ができるようにするのが望ましいと考える。今後の復興の担い手は、まさに彼ら大学院生だからである。

(4)指南役による支援

 発災直後は、被災自治体職員はとにかく忙しく、当面の対応に追われ、何が何だかわからないうちにどんどん時間が過ぎていく。このとき、当面の対応とは別に、次に起こること(罹災証明発行、各種支援金の配分、避難所の縮小、仮設住宅の建築、復興計画案の作成等)を予測しながら、準備を進めておくことが重要である。それには、被災自治体の担当部署だけでなく、全体像を冷静に観察し、状況に合わせて取り組みを助言できる他自治体の「指南役」が非常に役立つ。これは支援職員数では測れない、質的な人的支援である。ノウハウはマニュアルではなく、人にある。

 たとえば災害時の医療支援では、医師、看護師、業務調整員で構成されたDMAT(災害医療緊急支援チーム)が、急性期に支援にあたる。これと同様に、自治体災害対策本部を支援する「災害行政緊急支援チーム(仮称)」を設置してはどうだろうか。被災自治体で災害対応を経験した職員を中心に、災害時には被災自治体の災害対策本部の支援スタッフとして活動するのである。日常的には全国の自治体職員の防災研修などを行うほか、内閣府、総務省消防庁、国土交通省などの防災関係機関とも研究会などで顔の見える関係を築いていく。

おわりに

   被災者の苦しみ、不平不満のはけ口は、目の前の自治体職員に向けられる例が多い。住民の罵声に体調を崩したり、早期に退職する職員が後を絶たない。

   その中で、支援自治体の長期派遣職員は、ただ自治体業務の支援を行っているだけでなく、被災職員を支え、住民との軋轢を緩和し、復興に向かう力を加速させる存在になっている。東日本大震災の復興のため、また次の災害被害を軽減するため、自治体間連携による職員派遣体制の充実強化を願ってやまない。

 

謝辞:本論考をまとめるにあたって多くの被災自治体のご協力をいただいた。業務多忙にもかかわらず、丁寧に話してくださった皆さまに深く感謝する。

 


参考文献 

重川希志依「応援と受援のための体制整備について」(公財)神戸都市問題研究所 都市政策 季刊‘13.4

本荘雄一「被災自治体から見た職員派遣の受け入れ状況について」(公財)神戸都市問題研究所 都市政策 季刊‘13.4

鍵屋一「自治体間連携による職員派遣のあり方」都市とガバナンスVOL21、(公財)日本都市センター、2013.3


[i]平成24年11月30日付の各都道府県知事、各指定都市市長宛ての総務省自治行政局公務員部長による「平成25年度における東日本大震災被災市町村への職員派遣について」

[ii]平成25年3月1日付、「東日本大震災に係る民間企業等からの人的支援に関する通知」