本文へスキップします。

全国知事会

 メニュー

TOP委員会・本部国際会議・その他研究レポート平成26年度平成26年08月 農地制度のあり方に関する地方六団体プロジェクトチームでの検討について

平成26年08月 農地制度のあり方に関する地方六団体プロジェクトチームでの検討について

三重県戦略企画部政策提言・広域連携課

          農林水産部農地調整課

Ⅰ はじめに

   農地転用にかかる事務・権限について事務手続きの迅速性と地域の実情に応じた土地利用といった観点から、従来から地方が権限移譲を求めてきました。

   国においては、昨年度、「地方分権改革有識者会議」に専門部会である「農地・農村部会」が設置され、農地転用にかかる事務・権限の移譲について検討が行われました。これらの検討を踏まえ、地方分権改革推進本部において「事務・権限の移譲等に関する見直し方針について(平成25年12月20日)」が決定されました。

   こうした動きを受け、地方六団体(地方自治確立対策協議会 地方分権改革推進本部)においても、平成26年1月に「農地制度のあり方に関するプロジェクトチーム」を設置し、本県知事を座長として、農地制度のあり方について検討を行いました。

   平成26年7月1日に、プロジェクトチームの報告書がまとまりましたので、その概要を紹介いたします。

Ⅱ 報告書の概要

   農地は、食料の安定供給にとって不可欠な資源であると同時に、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成等、多面的機能を果たしている有限で貴重な資源です。真に守るべき農地をしっかり確保していく必要があることは国と地方を通じた共通の認識ですが、現実には、農業・農村を取り巻く厳しい状況の下、農地面積の減少が続いています。

 一方で、我が国の人口は既に減少局面に入っており、今後、どの国も経験したことのない人口減少社会を迎えることになり、農地のあり方にも大きな影響がもたらされることが想定されます。

 こうしたことを踏まえ、真に守るべき農地を確保しつつ、住民に身近な地方自治体が主体となって、都市と農村を通じ地域の実情に応じた土地利用を実現する観点から検討を行いました。

1 現行制度の課題

   国においては、平成21年に農地法等の改正を行い、農業振興地域の農用地区域内農地を対象として「確保すべき農用地等の面積の目標」の設定の義務付け、農用地区域からの除外要件・農地転用規制の厳格化等、農地確保のための措置を講じました。このうち農地転用規制の厳格化等は農地転用面積の減少をもたらし、農地の確保に一定の効果を上げていると認められますが、次のような課題も明らかになってきています。

(1)農地の総量確保の目標と現実の乖離

   「確保すべき農用地等の面積の目標」は国の「農用地等の確保等に関する基本指針」(以下、「国指針」という。)で定めることとされ(農振法第3条の2)、平成21年現在の農用地区域内農地面積407万haに対し、平成32年時点で415万ha(102%)と設定されています(「農用地等の確保等に関する基本指針」(平成22年6月11日公表))。

   この目標設定に当たっては、農用地区域からの農地の除外や耕作放棄地の発生についてのこれまでのすう勢を踏まえ、農用地区域への編入促進や除外の抑制等の効果及び耕作放棄地の発生抑制・再生の効果が織り込まれていますが、現実には、農用地区域内農地面積は平成24年の時点で406万haに減少しており、既に目標との間に乖離が生じています。

(2)農地の総量確保の目標の設定プロセスの課題

    「確保すべき農用地等の面積の目標」は、国指針とともに、都道府県の「農業振興地域整備基本方針」(以下、「都道府県方針」という。)でも定めることとされました(農振法第4条)。この目標については国に協議し、同意を得なければならないとされ、国指針の「都道府県が定める確保すべき農用地等の面積の目標の設定基準」において目標値の算定式、すう勢や施策効果等の具体的な基準が示されています。

   農地確保のためには、国と地方が適切に役割を分担して制度や施策を展開していることから、国指針、都道府県方針のいずれの「確保すべき農用地等の面積の目標」の設定に当たっては、本来、国も、地方もそれぞれの立場から十分議論を尽くし、双方の立場で納得できる目標を設定すべきでしたが、最終的に国の同意が必要なことから、国指針の目標に準じた増加率に設定したり、施策効果の見込みが過大であったりした面がありました。

   結果的に、都道府県において達成すべき目標として十分意識されておらず、市町村においても、農業振興地域整備計画(以下、「市町村計画」という。)において目標設定の義務付けはありませんが、都道府県の目標が十分意識されていません。

(3)農地確保に資する施策の必要性と農地の多様性への配慮

   農地の確保のためには、目標の設定と併せ、その達成に向けて、国と地方がそれぞれの役割に応じて農地の確保に資する施策に適切に取り組むべきであり、経営環境・生産基盤の整備や担い手の育成・確保、担い手への農地の集積・集約化に取り組むとともに、農地の総量確保の目標と現実の乖離の大きな原因である耕作放棄地の対策も必要です。

    また、個々の農地は多様であり、それぞれの実情に応じた施策を講じていかなければなりません。特に条件不利農地では、耕作者が確保できないことが大きな課題になっており、経済的支援、生活環境の整備等によって耕作が維持できる環境を整える施策が必要ですが、様々な施策を講じてもなお耕作の維持が困難である場合には、その現実を受け止め、地域の農業、農村の維持のために農地以外の用途での利用も検討が必要です。

(4)総合的な土地利用行政の観点からの課題

   都市、農村、山村にわたる一体的な地域づくりのためには、本来、土地利用行政は基礎自治体である市町村が総合的に担い、地域における最適な土地利用の実現を図るべきであり、これまでの地方分権改革の取り組みを通じ、都市計画法に基づく都市計画決定権限の多くが市町村に移譲されているところです。

    しかしながら、農地転用許可(農地法第5条)については、優良農地を守る必要があるとして、農林水産大臣許可・協議制度が未だ残されるとともに、農用地区域の設定(農振法第8条)を含む農用地利用計画についても、市町村が策定時に、都道府県知事へ協議し、同意を得ることとされています。

   これらについて、地方自治体は地域の実情を把握しており、十分に適切な判断ができるにも関わらず、①大臣許可・協議の事務処理に多大な時間・手間を要し、迅速性に欠ける、②総合的なまちづくりを進めていく上で課題がある等、これまで数多くの支障を地方から指摘しているところです(全国知事会・全国市長会・全国町村会「農地制度に係る支障事例等について」(平成25年10月2日)、「農地制度に係る支障事例等について【追補版】」(平成26年7月1日)をとりまとめ)。

2 農地制度のあり方の見直しの方向性

(1)農地のマクロ管理とミクロ管理

   農地の総量確保(マクロ管理)については、地方が農地の確保の責任を国と共有することを基本とした上で、目標管理の実効性を確保するため、地方が主体的に農地確保の目標を設定して、その管理も行うようにし、目標達成のための施策にも取り組むようにすることを見直しの方向性とするべきです。また、国は、総量確保の目標の設定に当たって食料の安定供給、国土の保全等の観点で地方と議論を行うとともに、設定された目標の管理を全国的な立場で行い、必要な施策の充実を図ることによって目標達成に責任を持つべきです。

   その上で、個々の農地転用の許可や農用地区域の設定(ミクロ管理)については、総合的な土地利用行政の観点から、市町村がその執行を担う仕組みにする必要があります。

(2)農地の確保に資する国・地方の施策の充実

   農地の確保に当たっては、国と地方が協力して、農業の担い手の育成・確保、経営環境の整備、生産基盤の整備の3つの視点に立った総合的な取り組みを行っていかなければなりません。また、耕作放棄地の発生が国の想定を大幅に上回っていることを踏まえた遊休農地の利用指導・耕作放棄地の再生、さらに、条件不利農地における経済的支援・生活環境の整備等による耕作環境の整備・耕作者確保のための施策に取り組む必要があります。

   こうした農地の確保に資する様々な施策の実施に当たっては、国が施策体系の構築や制度の枠組みづくり等を行い、地方は、地域の実情に応じ具体の施策の実施を担うなど、国と地方が適切に役割分担しつつ、施策の充実を図っていくべきです。

3 国・地方の協力による実効性のある農地の総量確保の目標管理

(1)現実を見据えた合理的な目標の必要性 ~現実を見据えた目標管理

  実効性のある農地の総量確保の目標管理の仕組みを構築するに当たっては、現実を見据えた合理的な目標設定が前提となります。

  具体的には、①想定を大幅に超えて推移する耕作放棄地の発生、②農地を耕作する農業就業者数の減少、③人口減少による国内の食料需要の減少、④食料消費構造の変化による、自給率の低い畜産物や油脂類等の消費量の増加などの社会情勢の変化を十分考慮し、真に確保すべき農地を見定めた上で、国指針の「確保すべき農用地等の面積の目標」を設定することとします。

   また、農地が果たす役割は食料の供給にとどまらず、国土の保全等の多面的機能を果たすものであることから、過去のすう勢のほか、これらの要因を十分考慮し、真に確保すべき農地を見定める必要があります。

(2)施策効果ごとの目標の設定 ~根拠のある目標管理

    「確保すべき農用地等の面積の目標」の設定に際しては、国及び地方による農地確保のための実際の取組効果を適切に示す目標管理となるよう、同時に農地確保の施策効果ごとの目標を設定することとします。

 具体的には、①農用地区域への編入促進、②農用地区域からの除外抑制、③耕作放棄地の発生抑制、④荒廃した耕作放棄地の再生について、現在、進捗状況が目標と大きく乖離している施策があることから、国、地方における各施策の実施状況・見込みを踏まえた上で、農地の条件や地域の状況を考慮して設定します。

(3)国と地方の十分な議論のための枠組み ~納得感のある目標管理

   「確保すべき農用地等の面積の目標」及び新たに設定する農地確保の施策効果ごとの目標は、国、都道府県、市町村が十分議論を尽くした上で設定することとします。このため、単に国が地方の意見を聴取するのではなく、国と地方が透明性を確保した中で、実質的な議論を行うための新たな枠組みを設けます。また、目標の設定に当たっては、市町村が主体的に判断し、設定した目標を積み上げていくことによって、国の目標とすることを基本とするべきです。

  具体的には、まず、市町村が個々の農地や農村の実態を踏まえ、真に確保すべき農地と判断する農地について目標の案を示します。一方、国は、食料の安定供給や、国土の保全等の多面的機能を果たしている有限で貴重な資源であるという観点で目標の案を考えることになりますが、その目標の案の数値が必要と判断した根拠を分かりやすく示した上で、国と地方が双方の立場で納得できる点を見出し、目標とします。

  市町村が考える目標の案と、国が考える目標の案の間で生じることが見込まれる乖離については、真に確保すべき農地の範囲の考え方について国と地方の間で議論を重ねること、また、農地面積の減少のすう勢、農地確保の施策効果を過大・過小に見積もることなく、国と地方で精査すること等によって解消しますが、それでもなお市町村が考える目標を上回る目標を国が必要と考える場合、国は地方が農地を確保できるよう施策のさらなる充実を行い、その施策効果によって解消を図ることとします。これら一連の過程において、都道府県は地域の実情により、必要に応じて広域的な調整を行います。

  こうして設定される「確保すべき農用地等の面積の目標」については国指針、都道府県方針、市町村計画にそれぞれ明記することとします。具体的にどのような施策を講じるかについても、国指針では「農用地等の確保に関する基本的な方向」として農地確保のための全国的な基準の運用方針や施策のメニューを提示し、都道府県方針や市町村計画では「農用地等の確保に関する事項」として、国指針を踏まえて実際に基準をどのように適用し、また、どのような施策を講じて農地を確保していくかを明記していくこととします。

(4)国と地方による「実行計画」の策定と事後評価 ~実行力のある目標管理

  国指針、都道府県方針、市町村計画に盛り込まれた農地確保のための施策を確実に実行に移すため、国、都道府県、市町村それぞれのレベルで、「実行計画」を策定することとします。

  実行計画の実施とそれによる農地確保の状況については、事後に専門家(国のレベルでは地方の代表者を含む。)で構成される第三者機関による評価を地域の実情を踏まえながら行い、その結果は議会、農業関係者等にも広く周知し、その後の施策や実行計画に反映させていきます。

(5)条件不利農地の扱い

   中山間地域等の条件不利農地を維持するための施策を実施してもなお、耕作を維持していくことが困難と思われる農地が、現実には数多く存在します。そして今後、人口減少に伴う集落機能の小規模化や、高齢化が一層進展して、集落機能の維持が困難になり、こうした傾向には拍車がかかることが見込まれるところです。

   このような条件不利農地については、農地として存続させるより、農業以外の用途に供することが地域の農業、農村の維持にとって有益な場合も考えられます。このため、地域の農業、農村の維持という積極的な目的のために農用地区域からの除外を行う場合、それによる農地面積の減少については、当該地域の実情を十分勘案して事後評価を行うこととします。

4  農地転用許可制度・農用地区域設定制度の見直し

(1)農地転用許可制度の見直し

   地方が、農地を含めた土地利用について権限と責任を担うことにより、真に守るべき農地を確保しつつ、地域の実情に応じたまちづくりを行うことができるようになるとともに、事務手続きの迅速化が図られ、より機動的な対応が可能となります。

   このため、3のとおり国は農地の総量管理(マクロ管理)の仕組みを充実しつつ、個々の農地転用許可については、大臣許可・協議を廃止し、土地利用行政を基礎自治体である市町村が総合的に担っていく観点から市町村に移譲し、国、都道府県の関与は不要とするべきであるとしています。

   なお、農林水産省は、都道府県知事許可について実態調査に基づき、不適正な事案があることを繰り返し指摘しています。しかしながら、全国知事会から全都道府県への聞き取り調査によると、都道府県(地方自治法による事務処理特例で移譲されている場合には市町村)側の見解としては、技術的助言に沿っていない処理、事実認定の誤り、添付書類の不足等が多くを占めています。法令に違反した事務処理について地方は真摯に反省し、再発防止を徹底しなければなりませんが、個々の事案を見ると必ずしも法令に違反した事案を指摘しているものばかりではないとも考えられます。

  また、農地転用許可が私人に対して課している土地利用の権利制限を解除する行政処分であることを踏まえれば、地域の実情を踏まえつつも、必要な事案については統一的な運用が確保される必要があり、このため次の措置を講ずるべきです。

○地方との意見交換と基準等の明確化

  地方分権改革有識者会議農地・農村部会報告書において、国は「農地制度の検討を行う間においても、農地転用制度及び農業振興地域制度に係る課題について国と地方の間で定期的に意見交換を行う場を設けるべきである」とされています。意見交換の場については、今秋開催の方向で調整がなされているようですが、関係する都道府県及び市町村が幅広く参加できるようにし、また、運用面に限らず、制度面に係る課題についても地方の声を反映できるような形で実施することが望まれます。

  また、意見交換、農地転用事務実態調査の結果等を踏まえ、地方による農地転用許可の自主的かつ迅速な判断に資するよう、法令の基準と技術的助言の区分を明瞭にするとともに、それぞれの内容の明確化を図る必要があります。

○意見聴取の見直し

 詳細に示されている法令の基準を適正に解釈し、必要に応じて技術的助言を適切に参照した上で公正な立場から許可権者に意見を述べる視点が必要です。このため、市町村農業委員会の委員のうち、農業分野に知見を有する各種専門家等の学識経験者の選任委員の比率(現在4人以内)を高めることができるようにします。

 一方で、農地転用許可に当たっては、都道府県農業会議からの意見聴取が義務付けられていますが、地域によっては、限られた開催回数の中、短時間で多数の案件を処理している実態があり、市町村農業委員会の意見に加えての意見聴取を法律上一律に義務付ける必要性は低くなっています。このため、都道府県農業会議の意見聴取の義務付けは廃止して、地域の実情を踏まえ、必要に応じて許可権者が意見を聴取するものとします。

(2)農用地区域設定制度の見直し

 市町村計画の策定のうち農用地区域の設定・変更については、都道府県知事の同意を不要とします。

 一方、都道府県方針のほか、市町村計画への記載を提案した「確保すべき農用地等の面積の目標」については、市町村と都道府県、都道府県と国が十分に議論を尽くした上で設定します。

Ⅲ おわりに

   今回の検討にあたっては、これまで一律で硬直的な運用であった農地転用にかかる事務・権限について、農地を確保する、という重要な命題に応えつつも、それぞれの主体が、地域の実情や必要性を勘案して判断を行い、適切な方法を選択し、役割を果たしていける仕組みの提案を目標として検討を行ってきたものです。

 報告書については、地方六団体の各団体の承認を得て、現在、地方全体の意思として国に提言等を行っているところです。

  このように、地方がまとまって検討を行い、最終的に一つの結論を出して、一丸となって意見を表明していくことができたのも、検討に携わっていただいた方々のおかげであり、感謝申し上げます。

農地制度のあり方に関するプロジェクトチーム報告書はこちらです