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TOP委員会・本部国際会議・その他研究レポート平成26年度平成26年10月 「少子化非常事態宣言」「次世代を担う『人づくり』に向けた少子化対策の抜本強化」について

平成26年10月 「少子化非常事態宣言」「次世代を担う『人づくり』に向けた少子化対策の抜本強化」について

高知県地域福祉部少子対策課

Ⅰ 「少子化非常事態宣言」をとりまとめた経緯・趣旨

   少子化の問題は、1970年代には顕在化していたにも関わらず、我が国における取組は諸外国と比較すると一世代遅れていると言われています。

   すでに多くの地方においては、若年人口の減少が加速化するなどの状況が要因となり、地域経済の活力が奪われ、人口流出にさらに拍車がかかるといった悪循環に陥るなど、問題はその深刻さを増しています。

   こうした状況の中、本年7月の全国知事会議では、このまま少子化の傾向が続き、地方から都市部への人口流出が続いた場合の地域の厳しい将来の見通しを明らかにした増田元総務大臣にご出席いただき、少子化や人口減少、東京一極集中などの問題について、徹底した議論を行いました。

   地域の人口減少の問題に対する地方の危機意識は高く、少子化の問題に加え、多くの知事から、企業や大学の東京への一極集中の是正を求める声が上がり、地方大学への支援の強化策や、企業の地方移転を促す税制改正の意見も出るなど、改めて、こうした問題への危機感を全知事が共有することができました。

   その結果、会長の強いリーダーシップのもと、全国知事会議での議論なども踏まえ、少子化が国家的な危機を招く問題であることを改めて強く認識し、今この時こそ、国と地方が総力を挙げて思い切った政策を展開し、少子化対策の抜本強化に取り組むことが必要であることを広く世の中に訴えるために「少子化非常事態宣言」のとりまとめが行われました。

Ⅱ 次世代を担う『人づくり』に向けた少子化対策の抜本強化(提言)について

   本県知事をリーダーとする「次世代育成支援対策プロジェクト・チーム」においては、これまで、こうした問題の課題解決を図るためのより具体的な道筋を示す必要があるとの考え方のもと、少子化対策の抜本強化の方向性についての検討を重ねてまいりました。

   7月の全国知事会議において、少子化非常事態宣言と併せて、全会一致で標記の提言をとりまとめましたので、その概要をご紹介いたします。

1  少子化が引き起こす危機への基本認識

   少子化が引き起こす国家的な危機として、まず、社会保障の問題が挙げられます。

【図1】

図表:【図1】高齢者1人を支える現役世代の人数

   【図1】のとおり、現在は、現役世代の2.6人が高齢者1人を支えていますが、このままいけば50年後には、現役世代が高齢者を1対1で支える肩車型の社会となり、若い世代の1人1人に大変厳しい負担を背負わせる時代が到来することになります。

   さらに、生活の基盤を支える地域社会そのものも、合計特殊出生率に大きな改善が見られなければ、地方から都市への人口移動が収束していくという楽観的な仮定を置いたとしても、総人口の4割以上を高齢者が占め、かつ、生産年齢人口が4割以上減少する自治体が780団体にものぼるなど、消滅の危機とも言える極めて厳しい状況に置かれることが予想されます。

2 直ちに対策の抜本強化に取り組む必要性

 こうした厳しい将来の見通しを変え、国が「経済財政運営と改革の基本方針2014」において示した『50年後に1億人程度の安定した人口構造の保持』を目指していくためには、【図2】のとおり、

【図2】

図表:【図2】総人口の将来推計

   2013年時点で1.43である合計特殊出生率を、2030年頃には、2.07(人口置換水準)程度にまで回復し、さらに、その後も同水準を維持することが必要です。

   仮に、少子化傾向に歯止めがかからず、2030年頃の合計特殊出生率が1.34程度に止まり、その後も同水準で推移するとすれば、100年後には人口が現在の1/3程度にまで減少し、高齢化率は4割を超えるという、厳しい未来が待ち受けています。

   このように、2030年時点の合計特殊出生率の水準が、その後の人口規模に大きな影響を与える分岐点であることを踏まえれば、直ちに少子化対策の抜本強化を図ることが不可欠です。

   大変厳しい道程ではありますが、今すぐに取り組まなければならない、今ならまだ間に合う国家的な課題であることを、改めて強く認識する必要があります。

3 少子化対策の抜本強化に向けた「3本の柱」

   こうした課題認識の下、人口置換水準である合計特殊出生率2.07を目指すためには、具体的に何を成すべきかという点について、新たに「3本の柱」を掲げました。

   1点目は、「出生率を高めるための施策」です。

   結婚を希望するより多くの方々が望みを叶え、希望する時期に安心して出産・子育てができる社会づくりを目指して、結婚、妊娠・出産、子育て、仕事と育児の両立といったライフステージに応じた施策を、切れ目なくより強力に展開していくことが必要です。

   さらに、少子化の背景は地域によって大きく異なっており、待機児童問題を抱える都市部や、若者が少なく結婚支援が必要な人口減少地域など、それぞれの地域の実情に合った施策を推進していくことが不可欠です。

   2点目は、「地方で家庭を築く若者を増加させるための施策」です。

   子育てを取り巻く環境の違いなどから、都市部は地方に比べ合計特殊出生率が総じて低い水準に止まっていることを踏まえると、より多くの若者が子育て環境に恵まれた地方に止まり、安心して家庭を築くことのできる社会づくりが必要です。

   そのためには、地域の雇用の場の創出や大学教育の充実、移住の促進など、従来の少子化対策の枠組みを超えた新たな視点に立った施策が必要です。

   3点目は、「世代間の支え合いの仕組み」です。

   少子化対策の相乗効果を高めるためには、出生率を高める施策と、地方で家庭を築く若者を増加させる施策の抜本強化に加え、子育てを世代を超えて支え合う社会づくりが不可欠です。

   子育て支援の充実のためには、高齢者に必要な社会保障費用を子育て世代に振り向けるべきといった議論もありますが、高齢者をはじめ地域住民や企業などが若い世代に協力しながら、社会全体で子育てを支え合う仕組みの構築が必要であり、具体策として、高齢者が若い世代の結婚や子育てに伴う経済的な負担を軽減する税財政制度の創設などが考えられます。

4 人口置換水準を目指すために成すべきことの定量的な検証

   これらの「3本の柱」に基づく対策の推進と、合計特殊出生率を人口置換水準に近づけることとの相関関係を検証するために、本県において定量的な試算を行いました。

   まず、少子化の最大の要因は未婚化・晩婚化・晩産化であると言われており、【図3】のとおり、未婚である男女の9割近くは、結婚しないと決めている訳ではなく、いずれは結婚したいと考えていることが分かります。

   また、【図4】のとおり、平成24年時点では、第1子の平均出産年齢は30.3歳、平均初婚年齢は男性30.8歳、女性29.2歳となっており、合計特殊出生率は1.41に止まっています。

   一方、合計特殊出生率が2.13と、人口置換水準を超えていた昭和45年当時の状況を見ると、第1子の平均出産年齢は25.6歳と今より5歳ほど若く、平均初婚年齢も男性26.9歳、女性24.2歳と同様に5歳ほど若い状況にあり、昭和45年以降の合計特殊出生率の低下傾向と、結婚・出産年齢の上昇傾向とは、反比例の関係にあることが分かります。

【図3】

図表:【図3】未婚者の結婚への意欲

【図4】

図表:【図4】合計特殊出生率と第1子出産年齢、初婚年齢の推移

   こうした現状を踏まえて、仮に【図3】の未婚者のうち、いずれは結婚したいと考えている約9割の女性の希望がすべて叶い、全員が結婚し子どもが生まれたとすれば、【図5】中央部分①のとおり、合計特殊出生率は0.28ポイントのプラスになります。

 さらに、平成24年に出産した女性が、仮に【図4】の昭和45年当時と同様に、今より5歳程度若い年齢で出産することができていたとすれば、【図5】左上部分②のとおり、合計特殊出生率は0.37ポイント上昇し、平成24年の合計特殊出生率に①、②を加えるとトータルで「2.06」と、ほぼ人口置換水準に近づきます。

   併せて、現在、合計特殊出生率が最も低い東京都への地方からの人口流出が続いていますが、【図5】右部分③のとおり、より多くの若者が、子育て環境に恵まれている住み慣れた地方で安定した家庭を築くことができれば、結婚や子育ての希望も早い時期に叶いやすくなり、合計特殊出生率のさらなる引き上げにつながる効果をもたらすことも期待できます。

   このように、合計特殊出生率2.07の達成を目指すとすれば、結婚を望む全ての方の希望を叶えることに加え、第1子の平均出産年齢を5歳程度引き下げることが必要であり、その実現は極めて厳しい道程となることが予想されますが、国と地方が連携を強化し、インパクトのある思い切った施策を展開していくことにより、達成は十分可能だと考えます。

【図5】

図表:【図5】対策の抜本強化に向けた「3本の柱」

5   抜本強化に向けたトータルプラン

   こうした検証を踏まえて、3本の柱に基づく具体的な政策集として、「少子化対策の抜本強化に向けたトータルプラン」をとりまとめました。

   個々の具体策は、60項目以上にものぼりますが、3本の柱に位置付けた8つの分野の主な提案内容は、次のとおりです。

Ⅰ 出生率を高めるための施策

   出生率を高めていくためには、その入口となる結婚期から、妊娠・出産期、子育て期、仕事と育児の両立といったライフステージを通じた総合的な対策の強化が必要です。

   まず、前述の定量的な検証を踏まえれば、「①より多くの方が結婚の希望を叶える施策」としては『総合的な結婚支援策の強化』が必要であり、すでに多くの地方が様々な結婚支援策に独自に取り組んでいますが、これらの施策の一層の強化を図っていくためには、国による財政支援の拡充などの強力な後押しが必要です。

   「②より希望する時期での出産・子育てを叶える施策」としては、子育て世帯向けの住宅の供給促進といった基盤整備に加え、『妊娠・出産のための環境整備』が不可欠であり、平均出産年齢の上昇に伴い急増している不妊治療への総合的な支援や、安全・安心な周産期医療体制の整備のほか、若い頃からのライフプランの形成に役立つ妊娠・出産の医学的な知識の情報提供といった取り組みが必要です。

   併せて、安心して子育てできる環境整備に向けて、『子育て支援策の充実』は欠かせないものであり、平成27年度にスタートする子ども・子育て支援新制度における待機児童の解消や保育士等の処遇改善など、質と量の両面にわたる拡充強化に必要となる1兆円超の財源の確実な確保が、喫緊の課題となっています。

   さらに、①・②の双方に関わる施策は、少子化対策を推進するうえで極めて重要であり、特に、以下の3つの分野の抜本強化に向けて、全力で取り組む必要があります。

   1点目は『子育てに伴う経済的負担の軽減』です。

   【図6】のとおり、理想の子どもの数より実際に予定する子どもの数が少ない理由の第1位は「子育て・教育にお金がかかりすぎる」、さらに【図7】のとおり、結婚を望みながらも結婚できない理由の第2位は「結婚資金が足りない」となるなど、多くの方が結婚や子育てに伴う経済的な負担を不安視しています。特に、理想の子どもの数を3人としながら、予定は2人と考える方の7割以上が経済的な理由を挙げるなど、子育てに伴う経済的な負担は少子化の大きな要因の一つとなっており、第3子以降への重点的な支援や幼児期の教育・保育の無償化、教育費の負担軽減、子どもの医療費助成制度の創設などといった、思い切った施策が必要です。

【図6】

図表:【図6】理想の子どもの数と予定する子どもの数(H22:既婚者)

【図7】

図表:【図7】結婚できない理由は「適当な相手に巡り合わない」「結婚資金が足りない」が圧倒的

   2点目は『子育てを阻んでいる雇用環境の改善』です。若年層の非正規雇用の増加や恒常的な長時間労働は、子育てのみならず結婚の抑制にもつながっており、正規・非正規雇用の二極化や長時間労働の是正に向けた国レベルでの制度を構築し、安定的な収入が見込める所得環境に加え、結婚や子育てに取り組む時間を確保できる働き方へと転換を図ることが不可欠です。

   3点目は『仕事と子育ての両立が可能となる職場環境の整備』であり、女性の活躍促進と、出産後も継続して働き続けられる就労環境の整備は、いわば車の両輪とも言えます。男女がともに仕事と子育てを両立できる就労環境の整備など制度面での拡充はもちろんのこと、経営者の意識改革や職場風土の変革、男性の家事・育児参画の促進など、企業による主体的な取り組みなども含めたワークライフバランスの抜本強化策が必要です。

Ⅱ 地方で家庭を築く若者を増加させる施策

 「③より多くの若者が地方で家庭を築ける施策」には、従来の少子化対策の枠組みを超えて、人口流出や東京一極集中に歯止めをかけるための人口減少問題への対策として、『若者が地方にとどまり働ける雇用の場の創出』を位置付けています。

 地域経済の活性化や雇用の創出をはじめ、企業や大学の地方への移転促進策や地方大学への支援、地方への移住促進など、地方創生につながる骨太の取り組みを大胆かつ強力に展開していくことで、東京一極集中の流れを変えていくことが必要です。

Ⅲ 世代間の支え合いの仕組み

   これまでのⅠ及びⅡの施策群を下支えする『世代間の支え合いの仕組み』としては、地域の元気な高齢者や企業・団体などによる子育て支援など民間部門の取り組みに加え、公的部門では、地域少子化対策強化交付金の拡充による総合的な少子化対策の推進が欠かせません。

  併せて、高齢者が若い世代の経済的な負担を軽減し、結婚や子育てを後押しする、子育てを未来への投資と捉えた新たな税財政制度の仕組みがぜひとも必要だと考え、下記の具体策を提案しています。

高齢者から子・孫の世代への所有資産の移転と再配分が促進される税財政制度の創設

 我が国の世代別の資産の分布状況を見ると、【図8】のとおり、家計資産の約6割は60歳以上の年代に集中しており、その規模は約1,000兆円にものぼります。そして、これらの資産が超高齢者から高齢者に相続されるといったケースも多く、高齢世代に資産が滞留しているといった実態があります。

 一方で、若い世代が結婚をためらい、理想とする子どもの数を育てられない最大の理由は「子育てや教育の経済的な負担」であり、高齢者が保有しているこれらの資産を、贈与税の非課税措置の拡充・強化などを通じて若い世代に移転することができれば、結婚や子育ての大きな後押しにつながるものと考えられます。

【図8】

図表:【図8】世帯主の世代別資産総額(兆円)

   現在、子どもの保育・教育費の負担軽減策として「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」が実施されていますが、現行の制度は、すでに生まれている子・孫への贈与のみを対象とした時限措置であり、これから結婚し子どもを産もうとする若い世代に対しても資産を移転できるよう、要件緩和を図ることが必要です。

   そのうえで、対象範囲を結婚や子育て資金にも拡充し、払出手続も簡素化するなどして、結婚前の若い世代を後押しする恒久的な制度として創設していただきたいと考えています。

   さらに、不動産資産の現金化を促す公的保険の補償による新たなリバースモーゲージ制度なども併せて検討すれば、高齢者から若い世代への贈与の裾野がより一層拡がることが期待されます。

   制度化に伴い、現在1.5兆円程度の相続・贈与税が全てなくなったとしても、かつて、子育ての経済的な負担の軽減策として実施されていた「こども手当」に要した約2.4兆円の公的負担と比較すると、明らかに少額の財政負担で済むことに加え、仮に、高齢者の保有する1,000兆円の資産のうち1割程度が移転するだけでも、100兆円にも上る経済効果が見込まれます。

ぜひともこうした民間資金を活用した仕組みを具体化し、高齢者と若者が手を携えて、ともに支え合いながら安心して子育てのできる社会を形作っていくことが大事だと考えます。

おわりに

   東京一極集中などに起因する人口減少問題への関心が高まる中、今回の提言は、従来の少子化対策はもとより、これまでの次世代育成支援対策プロジェクト・チームの枠組みを超えて、教育や産業振興の分野、さらには税財政制度などといった幅広い要素を取り入れたものとなりました。

   検討に携わっていただいたチーム員の皆様方には大変ご苦労をおかけしましたが、多様なご提案をいただきましたことを、心より感謝申し上げます。

   また、本提言に基づく国への要請活動につきましては、会長はじめ地方税財政常任委員長など様々な関係知事の皆様方にご協力もいただきながら展開しているところであり、政府が「まち・ひと・しごと創生本部」を創設し、人口減少の克服に向けた本格的な取り組みを始動させようとしているこの機を逃さず、今後とも全力で取り組んでまいります。