「豊かな里海」を取り戻すために~英虞(あご)湾の沿岸遊休地の干潟再生~

 伊勢志摩地域は古くから「御食(みけ)つ国」と呼ばれ、その中心に位置する英虞湾も真珠養殖発祥の地として、水産業を中心に豊かな自然と共存しながら栄えてきました。今後、伊勢志摩地域の農林水産業が持続的に発展していくためには、このような豊かな自然を再生、保全しながら活用し、そこから持続的に恵みを享受できる「豊かな里海」を取り戻していく必要があります。
 英虞湾において、環境再生の鍵となるのが沿岸域の遊休干拓地です。英虞湾の沿岸域では、食糧増産を背景に水田干拓が行われ、70%以上の干潟や藻場が消失しました。しかし社会情勢の変化とともに、現在はその85%以上が休耕地となっています。このような遊休地を干潟に再生し、有効活用することで湾の生物生産性を向上できる可能性があります。
 三重県水産研究所では、地域住民、漁業者、民間企業、行政関係者とともに、沿岸遊休地を干潟に再生する取組を平成22年4月から実施しています。かつて干潟であった未利用の干拓地約2haの場所を活用し、海域と干拓地を分断している潮受け堤防の水門を開放することで、干潟に再生できるかどうかを調査中です。あわせて地域住民に再生効果を実感してもらうとともに、干潟の重要性を認識してもらうため、生物観察会やアサリの放流、コアマモの移植等の再生活動を協力して実施しています。水門開放から1年以上が経ち、稚魚やカニ、エビ、アサリなど海の生き物がたくさん戻ってきています。
 多様な主体が連携するこうした取組は、「豊かな里海」を取り戻す重要な手法であるとして、COP10など沿岸環境保全のための国際会議でも取り上げられ、国内外から広く評価されています。また、この活動をきっかけに、地元志摩市の総合計画においても干潟再生が数値目標として取り上げられ、環境保全と経済活動が両立する新しい里海を創生しようという機運が高まりつつあります。さらにこの活動は、全国に60,000ha以上あるとされる沿岸遊休地の有効利用の先進モデルにもなると考えています。

【お問合せ】
三重県水産研究所
電話番号 0599-53-0016

担当者が国際会議で取組を発表しました