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タイトル | 山梨県独自の「流通備蓄方式」による衛生物資の備蓄体制 |
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施策・事業名称 | 衛生物資備蓄体制高度化事業 |
都道府県名 | 山梨県 |
分野 | 健康福祉 |
事業実施期間 | 令和4年12月28日~ |
施策のポイント |
目下の新型コロナウイルス感染症のほか、未知なる新興感染症を含めた感染症の発生に備え、将来にわたり安定的な衛生物資の備蓄体制を構築した。 これまでは、令和2年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、衛生物資の備蓄を開始し、旧庁舎2箇所に分散して一時保管していた。当初は衛生物資を備蓄(調達)することに注力していたが、令和5年以降、順次、使用期限が到来するため、期限切れによる買い替え・廃棄が生じる。また、クラスター等の発生により、医療機関等に県の備蓄を供給する際、職員が直営で仕分け、持参しており、機動的な対応が困難な状況だった。 そのような課題を抜本的に解決し、安定的な備蓄体制を構築するため、本県に所在する民間物流会社が運営する大規模物流センター(令和4年9月竣工)に備蓄場所を集約し、物流センターの機能を活かした物流会社による迅速な供給体制を構築するとともに、衛生物資の使用期限到来による買い替え・廃棄の無駄を省くため、衛生物資を取り扱う事業者が日常行う病院等との取り引きを活用して、使用期限が切れないよう新陳代謝させる「流通備蓄」の仕組みを構築した。 |
内容 |
1.背景 令和元年12月に中国で最初の事例が報告されて以降、世界的なパンデミックに発展した新型コロナウイルス感染症。世界中で連日、新規陽性者が確認されるとともに、その数は増加の一途をたどった。そのようななか、色濃く影響を受けたひとつに衛生物資がある。新型コロナウイルス感染症患者への対応のため、医療従事者が常に身に付けるマスクやガウン、グローブといった衛生物資が、感染拡大と同時に国内外で需要量が増加し、多くを輸入に頼る我が国の衛生物資の流通網は大きな打撃を受けた。医療機関等でも通常どおりの調達が困難となり、医療提供体制への影響が懸念されるようになった。 その一方で、本県においても、令和2年3月に初めて新型コロナウイルス感染症の新規陽性者が確認されて以降、日に日に新規陽性者は増加するとともに、その濃厚接触者への対応や発熱外来受診者への対応等、衛生物資の使用量も日々、増大していった。そのため、本県では、パンデミック初期から国からの配布や独自調達等により、衛生物資の備蓄を開始し、県内の医療機関や社会福祉施設等での1ヶ月分の必要量の推計を基に、衛生物資の備蓄計画(R2.10)を策定し、必要量の3カ月分以上の数量を備蓄することとした。 当初は衛生物資の需要が市場流通量を上回っており、多量の調達が困難であったことから、まずは備蓄計画数量を充足させるため、備蓄(調達)することに注力した。一方、クラスター発生等による医療機関や社会福祉施設等への供給には、職員が直営で仕分け、持参するなどの対応を取っており、備蓄量全体の目標は備蓄計画で定めたものの、備蓄の次のフェーズである安定供給の体制については、目下の新型コロナウイルス感染症への対応に忙殺されたことから、半ば応急的な対応としていた側面がある。 2.課題 旧庁舎2箇所で、衛生物資の備蓄を開始したが、季節の寒暖差や湿気等、衛生物資の保管場所として適した環境とは言えない状況であり、また、衛生物資の品目ごとに配置してはいたが、使用期限への考慮がなく、使用期限が近いものと余裕があるものが入り混じった状況であった。 供給体制については、職員が直営で実施していたため、医療機関や社会福祉施設等から県備蓄の供給依頼があるような場面では、同時に新型コロナウイルス感染症の波が高い時期(感染拡大期)にも当たり、衛生物資の供給を担当する職員自身が感染対策等への業務に追われていること、及び、人力での作業のため搬入・搬出の労力が膨大であることから、機動的な対応が困難な状況であった。 また、備蓄している衛生物資は令和2年中に調達したものが大部分を占め、一般的な使用期限とされる3年(ものによっては異なる)を令和5年中に迎えることから、今後、使用期限が到来したものについては、買い替え・廃棄が生じ、その分のコストも数年置きのサイクルで発生することとなる。 3.経緯 上記課題が浮き彫りになるにつれ、目下の新型コロナウイルス感染症のみならず、未来に起こり得る未知の新興感染症にも備えるとともに、持続可能な衛生物資の備蓄の仕組みを、備蓄のみならず供給とのパッケージとして検討することが将来的に必要だと考えるようになる。 そのようななか、本県内に所在する物流会社から、本県の中央部で交通網の結節点となる位置に、空調設備やトラックバース、ヘリポートなどの防災機能も備えた新たな物流拠点の建設構想があること、及び、防災分野では「流通備蓄」による備蓄が全国的に広がりつつあること、の情報提供を受け、当該施設を活用した備蓄体制の検討を開始した。 4.備蓄及び供給体制の検討 当時の備蓄体制である旧庁舎での備蓄、及び、職員による供給を見直し、まず、本県で備蓄する衛生物資を当該物流拠点で一括して備蓄するとともに、当該物流会社の物流網を活用した供給体制を構築することとした。具体的には、当該施設内に、県備蓄用のスペースを確保し、旧庁舎2箇所からの移設、入出庫、配置、数量管理等を委託。また、供給時には、供給依頼のあった施設等の所管課から、供給先の施設名、住所、供給品目・数量等を記載した作業発注書を当該物流会社にメールで送ることで、土日を含み原則、翌日中(至急の場合は当日中)に納品可能な体制を構築した。 5.流通備蓄導入の検討 流通備蓄導入の検討開始から多数の仲卸業者や医療機関と30回近い協議を重ねてきた。しかしながら、様々な困難が判明し、導入可能な仕組みを模索していたところ、当初難色を示していた仲卸業者1社から新しい提案を受けることとなる。それは当該仲卸業者のグループ会社の物流センターにある在庫を活用し、県の備蓄と同社の顧客向けの在庫を回転させ常に新陳代謝を行う仕組み。この仕組みであれば、県と当該仲卸業者との間で、流通備蓄管理の契約を締結すれば、導入できることとなる。ただ、一方でこの案にも障壁があった。この仕組みの場合、県が所有する衛生物資を仲卸業者が顧客への販売のため回収し、回収した数量分新しいものを納めることとなるが、煩雑な手続きが必要となる。通常であれば、回収分を売り払い、新たに納める数量分の調達契約を結ぶこととなる。ただ、その都度、そのような手続きを取ると業務が複雑になり、また、備蓄計画数量全体を回転させるとなると、ほぼ毎週手続きしなければならない。それが、半永久的に続くとなると仲卸業者にとっても、県にとっても負担となることが確実である。最悪の場合、備蓄体制が構築できない恐れがあった。そこで、熟慮を重ねた結果、民法第586条の「交換」の規定を用いることで当該仲卸業者の承諾を得て、「流通備蓄」の仕組みを導入できるところまで辿り着いた。 6.山梨県独自の流通備蓄の仕組み (前提)現在、県で備蓄している衛生物資の使用期限が到来するタイミングで、流通備蓄による管理を行う当該仲卸会社から流通備蓄で管理する品目を順次、調達し、県の新たな備蓄場所である当該物流拠点に納品することで、県の備蓄とする。 (1)入庫と同じタイミングで県備蓄の最も古いものを出庫し、同量分を回収(ここで交換を行う)する。 (2)当該仲卸会社が、グループ会社の物流センターから新しい衛生物資を定期的に納品し、入庫する。 (1)、(2)の行程で全数量が古いものから新しいものに切り替わった時点を1回転とする。この回転を行うことで、使用期限が到来せず、常に新陳代謝された新しい衛生物資を備蓄することができる。なお、年度内に4回転の新陳代謝を行う見込みであり、仲卸業者としても、メーカー製造日からラグが少なく、ロットバックの影響を極力を抑えることで、回収後の衛生物資を日常の病院等との取り引きを活用することができ、安定的に流通備蓄による管理を行うことができる。 この仕組みを可能とする要因は、この仕組みを提案した仲卸業者がグループ全体で東日本全域を商圏とする日本トップクラスの衛生物資の取扱い量があるとともに、近隣県に物流センターがあること、自社ブランドを持ち合わせていること、また、本県の意図を汲み取りグループ会社全体のバックアップを取り付けてくれたことである。 7.事業効果 全国的に例が無い本県独自の流通備蓄による管理を導入することで、今後、未知の新興感染症が発生し、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの初期のような衛生物資がひっ迫した局面でも、充分対応可能な数量を常に新鮮な状態で備蓄することが可能。また、従来の備蓄方法における使用期限到来による買い替え・廃棄も流通備蓄の導入時の1回のみで、管理費用を含めたコストの面でも将来負担が大幅に削減できる(本県では、概ね流通備蓄導入から5年後には、従来の備蓄方法を継続した場合のコストを逆転する)とともに、SDGsの観点からも廃棄を無くすことで、持続可能な備蓄方法である。さらに、仲卸業者に在庫を押し付け、使用期限が切れる段階で払下げを行うわけでもなく、商品としての価値が十分にあるタイミングで交換することから、県と仲卸業者が相互にWIN WINの仕組みである。 また、備蓄は備蓄自体が主目的ではなく、実際の需要時に迅速かつ円滑に衛生物資を必要とする医療機関や社会福祉施設等に供給することが本来の目的であるため、その点においても、新たな備蓄場所である当該物流拠点を活用し、当該施設を運営する物流会社への連絡一本で迅速かつ円滑に供給することができる体制を構築したことで、備蓄と供給のパッケージである本県の衛生物資の備蓄体制は、将来に続く新型コロナウイルス感染症を経験した財産として、県民の生命・財産を守る感染症対応に係る医療提供体制に資する取り組みとしていく。 |
本件問合先 | 感染症対策企画グループ 情報・企画 |
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