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タイトル 福井県民衛星プロジェクト ~宇宙産業への挑戦~
施策・事業名称 県民衛星プロジェクト
都道府県名 福井県
分野 商工・労働
事業実施期間 平成27年4月1日~
施策のポイント  福井県では、新たな産業として、将来の成長が見込まれる宇宙産業に着目し、平成27年度、「福井県民衛星プロジェクト」と銘打ち、宇宙産業への挑戦を始動している。
 自治体主導で衛星を製造・打上げるという全国初のプロジェクトを達成する過程において、産学官金が連携し、人材・組織の育成、一連の衛星試験設備の集積、衛星製造・運用技術の習得、衛星データ利活用技術の向上などに取組み、県内企業の宇宙産業への参入を支援してきた。
 これらの結果、県内の宇宙産業分野の売上は、平成30年度の約2億円から令和4年度には約8億円と4倍になるなど、新たな産業の芽が生まれている。
 宇宙分野が県の産業として確立するよう、引き続き、ハード(人工衛星製造)、ソフト(衛星データ利活用)、人材育成・普及啓発の3本柱で取組みを進め、福井県が宇宙産業の国内拠点となることを目指している。
内容 1 背景・経緯

 人口減少や高齢化の進展などにより、県内企業の経済活動が縮小していく中、将来にわたり県民が豊かな生活を維持し県内企業が活力を高めていくために、技術やビジネスモデルの革新によりイノベーションを次々に起こし、企業の稼ぐ力を高めていくことが重要となっている。
 このような中、福井県では、基幹産業である繊維・眼鏡に続く新たな産業として、将来成長が見込まれる宇宙産業に着目。平成27年4月に改訂した福井経済新戦略に「地方自治体初の人工衛星」の開発・打上げを目指すことを明記し、本格的に宇宙産業への参入に向けた取組みを開始した。
 元来、福井県は産業に占める製造業の割合が高く、優れたものづくり技術を保有する企業が多いこと、また、取組み開始前から衛星データの活用について模索していたことも、この決定を後押しした。


2 県民衛星プロジェクトの取組み

 福井県では、県内企業の宇宙産業への進出、本県宇宙産業発展のため、(1)人工衛星製造、(2)衛星データの利活用、(3)人材育成と広報・普及啓発の3本柱で各種施策を進めることにより、宇宙産業の国内拠点化を目指している。

(1) 人工衛星製造

(1-1) プロジェクトの立ち上げ、組織づくり
 福井県では、まず平成27年度に産学官が連携し、宇宙産業に関する調査・研究を行い、宇宙産業への参入を促進することを目的とする「ふくい宇宙産業創出研究会」を設立した。
 同年、超小型人工衛星の第一人者である東京大学の中須賀教授を講師に招き、人工衛星の製造に関する講座を開催し、県内15企業、29名が参加した。この講座が縁で、平成28、29年度には、東京大学において人工衛星製造実地研修を実施した。これらの結果、県内企業は人工衛星の製造技術を習得、東京大学に技術力が認められ、令和元年には東京大学と共同で開発した3U(10×10×30cm程度)サイズの超小型人工衛星3機の打上げに成功している。
 このほか、宇宙産業創出研究会では、会員企業を対象としたセミナーや宇宙関連企業とのビジネスマッチングの機会を随時提供しており、企業の宇宙産業への参入を後押ししている。

(1-2) 県民衛星「すいせん」の製造・打上げ
 県では、県内企業の100kg級人工衛星製造技術の習得、および衛星データを活用したビジネスの創出を目的に、自治体主導としては全国初の取組みである、自ら人工衛星(県民衛星)を製造・打上げることをプロジェクト開始時に決定した。
 県民衛星の製造・利活用を実現するための組織として、平成28年度に、経済産業省の認可を受け、県と県内外の11企業からなる「福井県民衛星技術研究組合」を設立した。組合は、製造企業からなる衛星製造グループと、ソフトウェア企業からなる衛星データ利活用グループに分かれ活動を実施。このほか、組合には、地元金融機関も参画し、学術機関とも連携するなど産学官金が連携した活動を行う組織となっている。
 県民衛星は、平成28年度に衛星の設計を実施、令和元年度に製造が完了した。県民に名称を募集し、1,300通を超える応募の中から県の花である「すいせん」に名称が決定した。
 県民衛星は、令和3年3月22日に、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打上げられ、同年6月下旬より初期運用を終え、定常運用に入っており、現在、定期的に取得したデータを地上に送信している。
 県民衛星の製造を通し、衛星製造グループは100kg級衛星の製造技術を習得、また、衛星データ利活用グループは県民衛星が取得したデータを行政事務において活用するためのソフトウェアを開発した。(衛星データ利活用については後述)

(1-3) 人工衛星製造環境の整備
 福井県では、平成28年度以降、ロケット打上げ時の振動や宇宙空間での衛星に生じる温度の変化など、宇宙環境を模擬できる設備を県工業技術センターおよび若狭湾エネルギー研究センターに集中的に整備している。人工衛星の製造に必要な試験環境を整えることを通して、県内企業の人工衛星製造を支援している。
 小型人工衛星用の試験設備が集中している地域は、全国的にみてもJAXAつくば宇宙センターと九州工業大学、福井県くらいであり、これらの施設は、本県のみならず国内宇宙産業の発展にも寄与している。

(2) 衛星データの利活用

 上述の県民衛星「すいせん」は、内部に光学カメラを搭載しており、約2週間毎に同一地点の画像を撮影可能な衛星である。搭載したカメラの解像度は2.5m/pixelとなっており、地上の大型のバスを認識できる程度の画質である。このほか、人間の目では捉えることができない近赤外線の波長も観測することができる。
 福井県では、モデルユーザーとして前述の福井県民衛星技術研究組合が、「すいせん」画像の行政事務における利用を想定して開発した衛星画像利用システムを令和2年度から導入しており、様々な行政事務において衛星データの有効性を検証し、その結果を組合企業にフィードバックすることにより、システムの商品価値の向上に寄与している。現在、森林管理や湖の環境保全、観光分野等13の行政事務において「すいせん」の画像を活用している。
 今後、組合が開発したシステムを全国の自治体や民間企業に展開することにより、衛星データを活用したビジネスモデルの創出につなげていく。
 
(3) 人材育成と広報・普及啓発

(3-1) 県内学術機関と連携した人材育成 
 福井県では、令和元年度に福井大学と「超小型人工衛星の研究等に関する覚書」を締結、東京大学から人工衛星製造分野での国内トップクラスの研究員を福井大学に招聘し、県内企業のエンジニアの技術指導を行っている。
 また、令和5年には、福井工業大学と包括連携協定を締結しており、同大学が保有する地上局を活用した衛星の運用や衛星データ利活用分野における連携を想定している。
 このように、県内の学術機関と連携し、将来の福井の宇宙産業を担う人材の育成を進めている。

(3-2) 広報・普及啓発
 福井県では、令和元年6月に、国内最大規模の宇宙関連の国際会議である「第32回宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)」を招致した。ISTSには、世界25か国から1,071名の宇宙業界の関係者が参加し、県は学会において、世界に向けて県の取組みを発表した。また、ISTSにあわせて開催した地元イベント「宇宙フェスin福井」では、古川飛行士による講演会、JAXAによるトークイベント、NASAへの派遣を経験した中高生による発表等が行われ、延べ約3,200名を集客した。
 このほか、福井県では、各種イベント等における、県の宇宙分野での取組みの紹介、高校生を対象とした缶SATイベントや、児童生徒を対象としたイベントに衛星関係の問題を出題するなど、県内の宇宙に関する機運を醸成する取組みも進めている。


3 成果・今後の展望

 これらの取組みの結果、県内企業の宇宙産業に対する関心も高くなり、宇宙産業創出研究会の会員は、設立当初の21企業から令和4年度末では74企業まで増加している。
 また、複数の人工衛星の製造に関与したことにより、県内企業に衛星の製造技術が蓄積され、新たなビジネスや研究プロジェクトにもつながっている。宇宙産業分野における県内企業の売上額は平成30年度の約2億円から令和4年度には約8億円と4倍になっている(福井県推計)。
 県では、令和4年度から、県内企業の衛星運用技術の習得を支援しており、衛星製造から運用まで一気通貫の体制を構築することにより、安定した受注の獲得につなげていくことを目指している。県内企業は、今後、衛星の量産体制を構築し、将来的には部品の提供も含め、年間50~100機の衛星の製造に関与していくことを計画している。
 また、衛星データの利活用については、JAXAや国の事業も活用しながら、県内外の企業・学術機関と連携し、衛星データの行政分野における有効性を実証することにより、衛星データの利活用ビジネスを後押ししていく。
 宇宙が新たな産業として根付くよう、引き続き、福井県では「宇宙」をキーワードに、ハードウェア、ソフトウェア、インフラ、人材育成とあらゆる面で各種施策に取組み、宇宙産業の国内拠点化を目指していく。
図1. 福井県民衛星「すいせん」
図1. 福井県民衛星「すいせん」
図2. 人工衛星の製造に必要な環境試験設備(画像は6面電波暗室)
図2. 人工衛星の製造に必要な環境試験設備(画像は6面電波暗室)
図3. 福井県民衛星技術研究組合が開発した衛星画像利用システム
図3. 福井県民衛星技術研究組合が開発した衛星画像利用システム
図4. 県内企業のエンジニアのトレーニング
図4. 県内企業のエンジニアのトレーニング
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